2020年3月号 特集 本を読もう

2020年3月号 特集 本を読もう

特集 本を読もう

青木はるみ 古い古い本 4  渋谷卓男 本棚 5  佐伯徹夫 本を求めて 6
御供文範 朝日のあたる本棚 7  宮武よし子 心の糸ふるわせて 8
斗沢テルオ 母の謎の格言「本を跨ぐな」 9  志田昌教 心の引き出し 10
清水マサ 落下 11  こまつかん 書物を読む 12  加藤徹 言葉よ 語れ 13
秋山陽子 春来 14  大杉真 夏の朝 15  たなかすみえ 証人 16
小田切敬子 炎のかまど 17  城田博己 待ち構えて 18  宍戸ひろゆき 越冬トンボ 19
奈木丈 わたしのなまえ 20  山越敏生 今日も読む 21  白永一平 悲しみの本 22
梅津弘子 私を変えた一冊 23  三浦健治 マリネッティと祖父 39
玄原冬子 こころゆくまで 40  芝原靖 加藤書店物語 41  いいむらすず 探しもの 42
神流里子 本はともだち 43  上山雪香 問いかけて 44  浜本はつえ 本の中 45
竹井みよ子 小竹先生 46  永井秀次郎 ある読書 47  はなすみまこと 空箱の本 48
床嶋まちこ すてきな友達 49  柏原充侍 司法試験 50  山﨑芳美 いつの頃から 51
野口やよい バンビ 52  南浜伊作 一瞥された日 53  森田和美 源氏物語のはるかな闇 54
呉屋比呂志 寺子屋跡 55  斎藤彰吾 詩の会こと始め 56  山川茂 紙の羅針盤 57

エッセイ
散歩式読書の愉しみ  奥田史郎 24
心とことばを形にする仕事  左子真由美 30
人間にとって必要不可欠なもの  岡本厚 34

 

座談会
もう一度読み返したい詩  58
伊藤眞司 岩井昭 草野信子 立原直人 長谷川節子 司会・岡田忠昭

詩作品
妹背たかし 友よ 72  三浦千賀子 三年四組同窓会(その二) 73
山内宥厳 落ち葉の庭のmanis 74  池澤眞一 宮詣り 75  永山絹枝 無窮洞 76
佐藤文夫 お前はクビだ 77

書評 大杉真詩集『ひとつの愛』  あべふみこ 86  後藤光治詩集『吹毛井』  南浜伊作 86

ひうちいし 戸田志香 白根厚子 目次ゆきこ 春街七草 南浜伊作 82

後藤光治小詩集  カキ氷/迎え火/つわぶき/少年 78

四季連載 詩の見える風景・ふたたび春――はじめて出会った詩人たち  杉谷昭人 88

詩作案内 わたしの好きな詩 長田弘  長谷川節子 90

詩作入門 三、散文詩のこと  有馬敲 92

現代詩時評 想像することを断念しない 柴田三吉 94
詩  集  評 思い切って言葉を切る 魚津かずこ 96
詩  誌  評 子どもの詩から 田上悦子 98
グループ詩誌評 家族を描くとは 洲史 100

自由のひろば 選・都月次郎/草野信子/佐々木洋一 102
坂田敬子/いわじろう/やまくま/立会川二郎/森下厚司/落合郁夫/小篠真琴/伊志嶺恵子

寄贈詩誌・詩書 111 詩人会議通信 113 詩作2020報告 編集部 118 読者会報告 1月号 高田真 119
●表紙(「2011年アメリカ LA」)/扉カット 鄭周河 表紙写真あれこれ 柳裕子 120 編集手帳 120


 

●詩作品

本棚  渋谷卓男

どれほど揺れただろう
家族の去ったあの家は
気にかけながら夏が過ぎ、秋を過ごし
暮れになってようやく訪れる

ガラスが割れてないか
タンスが倒れてないか けれど
ほこりが一面、霜のように降りているばかりで
どの部屋も冬の日ざしに静まりかえっている

わたしが残した本も
残したまま棚にあった
一冊も落ちず
月日の分だけ色褪せて

わたしはそして、ひそかに思い描く
死んだはずの母が息子の本をひろい上げ
ひとり棚に戻しているところを

いつだってそうだった
窓を開ける音がして
畳を掃く音がして
うとうとしてる間に全部済んでいて
終わったよ 明るい顔がのぞくのだ
――今日はご本読もうか

こどもの目の前に
生まれて初めての本が広がる
ものがたりの海
ことばの風
わたしの本棚の
最初の一冊


●編集手帳

☆今月の特集は「本を読もう」です。
新聞が「もうすぐ終わる紙の本」という特集を組むいま、ご参加のみなさんが自らの人生に影響を及ぼした本について書かれています。
岡本厚氏は〝「読む」ことは、他者を知ること、理解すること〟、つまり他者につながることや、左子真由美氏は〝人は手触りを感じながら読むことができます〟といわれています。それは、本は〝言葉の多様性を感じる容器です〟(菊池信義。新聞より)につながります。つまり〝触感が大事だ〟ということです。それはまた〝読み返したいところがすぐ探せる〟という紙の本の特徴にもつながります。
いずれにしても、著者の言葉を真摯に受けとめ、読者は、〝私〟の心を育てているのです。その密接で微妙な感覚が、〝紙の本〟をつづけさせていくでしょう。
☆座談会「もう一度読み返したい詩」は愛知詩人会議の岡田忠昭氏に本誌昨年上半期の批評をお願いし、近県の方にも参加していただきました。有難うございました。(秋村宏)

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