2020年2月号 特集 海外詩

2020年2月号 特集 海外詩

●もくじ

特集 海外詩
アイルランド 暴力の時代の中で――イーヴァン・ボーランドの詩 歴史と政治と告発と  水崎野里子 40
韓  国   荒野に呼ぶ声―近代以降朝鮮の詩人群像――徐京植さんのお話を聞いて  柳裕子 47
尹東柱の故郷を訪ねて延吉の詩人と出会う  佐川亜紀 52
中  国   「死」と「生」の意味を考えさせて――三冊の2018年詩選集から  石子順 58

 

新春作品特集
杉谷昭人 農場跡 4  みもとけいこ そのおとこ 5  柴田三吉 辺野古 6
鈴木義夫 ハナモモの村 7  山本萠 わらび餅を貰った 8
田上悦子 母のいないお正月の記憶二篇 9  北島理恵子 9月と堤防 10
武田いずみ 帰省 11  おおむらたかじ ふるさとの小さな橋の上 12
いだ・むつつぎ アリンコたちのいる風景 13  岩堀純子 水辺のモノローグ 14
春山房子 失われる 時 15  宮本勝夫 どこに 16  菅原健三郎 環状列石・日時計 17
芝原靖 今を祝う 18  原圭治 ひばりさんへ 讃歌 19  宇宿一成 芝生で 20
山野次朗 空飛ぶ蛙 21  白根厚子 いきものたち 22  織田英華 ある猫の春 23
大西はな ハツエさん 24  あべふみこ 道しるべ 25  水崎野里子 孫の一歳祝 26
伊藤眞司 さてさて 27  田島廣子 上司に一言申し上げます 28  大釜正明 やつ 29
清野裕子 年号 30  檀上桃子 白檀と黒檀 31  小森香子 かたりべの学習会 32
笠原仙一 秋韻 33  田辺修 戦争の芽 34  滝本正雄 闇へと続く年明け 35
榊次郎 後片付けは終わっていない 36  長津功三良 生き物は必ず死ぬ 37
くらやまこういち 妻の正論 38  瀬野とし ひこばえ 39

 

詩人論 長田弘と「言葉」についての小論  山川茂 70

 

長い詩 金時鐘 うすれる遠景 66  青木みつお 升酒の味 67

 

書評 きみあきら詩集『歩く』  南浜伊作 69
大塚史朗詩集『糸と冬』  青木みつお 81

 

坂田トヨ子小詩集  父の口癖/母よ/古い家は 82

 

ひうちいし 河野俊一 清水マサ 春山房子 小泉克弥 滝本正雄 吉田豊 86

 

詩作案内 わたしの好きな詩 ラングストン・ヒューズ  くらやまこういち 90

 

詩作入門 二、生き残りの唄・パロディ  有馬敲 92

 

現代詩時評 詩は誰に捧げられるのか 上手宰 94
詩  集  評 時を蘇らせる 田辺修 96
詩  誌  評 それぞれの場所から あらきひかる 98
グループ詩誌評 生と死の意味 洲史 100

 

自由のひろば 選・佐々木洋一/都月次郎/草野信子 102
木﨑よしお/サトウアツコ/御供文範/坂田敬子/佐藤一恵/小篠真琴/立会川二郎/新見かずこ

 

寄贈詩誌・詩書 111 詩人会議通信 114 詩作2019報告 編集部 118 読者会報告 12月号 細田貴大 119
●表紙(「2017年ベトナム タムキー」)/扉カット 鄭周河 表紙写真あれこれ 柳裕子 120 編集手帳 120


●詩作品

そのおとこ
みもとけいこ

みかん山は草一本生えていない
みんな薬で枯らしてしまうからだ
みかん山のそばでつくしを採っていたら
おとこが近づいてきて やまに入るな
と 怒るのかと思ったら
みかん山のつくしは農薬すってるから
とるなと そのおとこはいった
四十年前の声が 耳のおくにはえている

草は除草剤で枯らし 化学肥料をやり
農薬をかけて病気を予防しなければ
出荷はできない
おかげで木の細い根は枯れてしまい
いまやみかんの根はこんなだ と
拳骨をぐっと握り振りあげた
突き出した腕のさきの
力瘤のような拳骨の毛細血管も 農薬すって
かじかんでいたのに相違ない

二〇一八年夏の西日本豪雨災害で
愛媛県南予地域の多くのみかん山が
崩れおちた それ以前にも
みかん山はたびたび崩れた
海の近くの急傾斜地に
ある 農薬で雑草もはえない
拳骨のような根をしたみかんの木が
真砂土の傾斜を支えられるわけがない

生計をささえた傾斜地は
支えきれずあの日背後から
家々をのんだ
土砂は耳の奥まで流れ込んできたか
そのおとこは 土石流にのみこまれただろうか
風がふくとおとこのこえが耳のなかで
ぼうぼうと吠える

 

 

●編集手帳

☆特集は「海外詩」です。水崎野里子、柳裕子、佐川亜紀、石子順のみなさんにご執筆いただきました。水崎さんは〝戦争の馬はいつでも私たちの日常の中を繋ぎ紐を解いて走ってゆき、平和の理想は裏切られる。それが歴史だ。…それは私たちの歴史でもある〟とアイルランドについて述べられ、佐川さんは〝人間の美しさ、民族の独立と言葉を守る志が息づき〟と尹東柱の故郷への旅を終えられています。いずれにしても、私たちは日本の言葉で、自分たちの現実、心を表現しなければならないのです。そのことを海外の詩を読むたびに思います。
☆山川茂さんの評論「長田弘論」は〝言葉の意味を問い続け、言葉を信じた詩人〟に焦点をあてた力作です。会員、会友、読者のみなさん、未発表の評論がありましたら、声をかけてください。
☆今年の世界の男女格差の報告書(世界経済フォーラム)で、日本は一四九ヵ国中一二一位です。政治分野では一四四位。女性の社会進出が男性優位の古い政治形態を変えていくのです。(秋村宏)

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