第41回(2007) 詩部門入選 加藤万知

第41回(2007) 詩部門入選 加藤万知

詩部門入選 加藤万知

1990年生まれ。滋賀県在住。県内公立高校に在学中。


受賞のことば
まいにちのなかの、ほんとになんでもないような一瞬。
たとえば五時間目が数学の木曜日とか。早口で喋る先生を、頬づえついてながめて。
大人はあたしたちが想像もできないような薄い空気の中で生きているんだろう。
未発達な呼吸器管を精一杯広げて、あたしたちはただ、ケースの中で、酸素を与えられているにすぎない。
そうして透明に泳いで。見える空に焦がれたりして。群れて、生臭くなって、生臭さに慣れて、水色がいつか空色になって、そして死んでいくんだろう。
しとしと。
あたしたちサカナ。その証拠に今日は雨だって降ってる。
ガラスの向こうの空はどう見たって灰色。
だから、
(あたしたちサカナ)
――そんなことを思ったんだ。


サカナ

加藤万知

 

朝の水槽の澄んだ空気を破って
学生服の群れが数をつくっていく
始業の鐘は昨日と同じように
密度のない空気に響く

机の肌色が視界に溶ける
今日もKは来ていないみたいだ
昨日も来なかったし
たぶん明日も来ないだろう

窓側のいちばん後ろはずっと空席だ

教師のつまらない冗談は
社会というものの形を如実にあらわしていて
サカナでいるアタシもまた
つまらない笑い声を水槽に混ぜた

青く透明なつまらなさが
曇り硝子をすり抜けて
紙ヒコーキみたいに
飛んでいってしまえばいいのに

がらんどうの机がいつになく目に付く
こんなに天気のいい今日なのに
アタシは水槽のなか大人しく座って
Kはたぶん鍵をかけた部屋のなかにいるんだ

クラスメイトのひとりが欠けても
思うより水槽は変化しなかった
サカナは呼吸をするし
水は気がつけば流れている

がらんどうの机には
いくつかの傷と爪あと
きっとみんな加害者で被害者なんだ
この水槽のちっぽけなこと!

Kはえら呼吸に飽き飽きしたんだろうか
毎日毎日が嫌になったんだろうか
今となっては
アタシに知る術はないけど

時々不思議になるんだ
たぶんKの思ったのと同じように
アタシはなんだろうかって
鱗みたいな黒板 なぞりながら

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