第41回(2007) 詩部門佳作入選 葛原りょう

第41回(2007) 詩部門佳作入選 葛原りょう

詩部門佳作入選 葛原りょう

東京都在住。「美しき村」離村後、詩、俳句、短歌を書く。
「詩人会議」「風歌」「朗読集団こえ」会員。


受賞のことば
ぼくが10代のころ、出逢いたかった詩を、現在のぼくが書いたわけです。愛だの歌だのを、まだ捨てていないのは、どんな時代にだって、リリックしか拠り所のない人はいるもので、22、3世紀だってやっぱりいるわけで、そういった人への、手向けの詩です。


鉱石   葛原りょう

地球という鉱石のなかで
こんなにも発掘してしまったからには
わたしはもう
鳥や雲や有象無象の
ましてやわたし自身の発掘などに
いそしむわけにはいかないのだ

流れてゆくことは
流されてゆくことだろうか
わたしが昨夜 川面に置いた笹舟が
今朝 あなたの入り江に着いたとしても
それはわたしの笹舟ではない

冬に 別れしな
「ありがとう」と言ってくれたね
それはあなたの真実だろうが
わたしにとっての真実とは随分違ったよ
「北斗七星のひしゃくをのばして
北極星を見つけてごらん…」
これはわたしにとって真実だったが――

すべてがサヨナラだったのか
地球のひとつのわたくしは
緑柱石の夢
ラピスラズリの歌
瑪瑙の愛を発掘しては
わたくしという化合物との相性を
天秤にかけて世界を
顕微鏡越しに覗いていた
さりげない 小児のような眼で

この指に触れたのは土である屍で
そこから拡がっていた苔、羊歯、胞子は
わたしの半身を既に覆っていた

切り離したかったのは
わたしのそんな右手であったか
発掘するとは 痛いことだ
ハンマーとタガネを持つ
打つ
くあん と鳴ってわたしが生まれる
空気にふれてわたしが変わる
はじめ わたしは愛だった
はじめ わたしは歌だった
打つ
くあん と鳴って あなたが生まれる
はじめ あなたも歌だった
人は このようにして削られてゆく

鳥が生まれて重力が生まれたのだろう
わたしが生まれたから
あなたが生まれたように
地球の鉱石のなかで
どんなに耀いても
まるで見えないくら闇の中で
互い互いの重力に怯えながら
暮らしながら

くあん

どこかで今日も
蒼い火花を散らしながら

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