第41回(2007) 詩部門佳作入選 森美沙

第41回(2007) 詩部門佳作入選 森美沙

詩部門佳作入選 森美沙

1987年生まれ。東京都在住。
現在は都内にある専門学校に通いながら文芸創作に勤しんでいる。
詩作2006年より。


受賞のことば
私のモラトリアム、執行猶予期間が終わりを迎えようとしています。
突如としてやってきた憂鬱が鼻先に突きつけられ、道に迷いはじめたとき私に一本の電話がかかってきました。
詩人会議新人賞佳作受賞を知らせるものでした。これから先、私がどういった道を歩むかはわかりません。
蝉のようにもっと執行猶予期間が長かったらいいのに……現実はそうはうまく行きませんね。
ですがこの賞を頂いたことにより心の執行猶予期間が少し延びた気がします。本当に私のつたない作品を選んでいただきありがとうございました。


急に放り出された気分やわ

森美沙

うちが小学校四年のとき
急に父ちゃんぽっくり逝ってしもたときからうち頑張ってんで
いい高校にいい大学……
いずれは甲斐性のある旦那と結婚して二世帯住宅
それがあの日からのうちの道やったのに
「自由に生きぃ」そう言って母ちゃんは泣きよるん
その隣には町工場の頑強なおっさん
あぁ。あぁ母ちゃん。今度は死ななそうな男を選んだんやね
煙をはく土手のその向こうの煙突群
よくうちのことを父ちゃんは肩車をしよりながら内緒でここへ連れてきよってん
看護婦の母ちゃんは嫌がっとったけど
お医者の父ちゃんはこの景色が好きやった
目に染みるような赤丸が煙突群に沈んでいく
あぁ。急に放り出された気分やわ
高校三年の夏のころ
突然降ってきた牡丹餅はうちには胸焼けのもとやってん

大学三年の秋近い夏のとき
敷金礼金がないからと選んだボロ御殿が取り壊しなんやて
住めばなかなかの都やってんけどな
腰のまがったばあちゃんが何度も何度も階段をのぼり頭をさげてきよるん
そのたびにうちは申し訳なくなって仕方なかってんけど
急に携帯が鳴り出したん
これまた情けのないチャルメラの電子音にのせて
うちはあまりに恥ずかしすぎて悪くもないのに何度も謝ってしもた
電車に揺られること数時間
久々におりたった田舎は相変わらず泥臭くて
するはずもないのにどこか消毒のにおいもしてん

新しい木目のアパートのドアの向こう
あの暖かくて寂しいものはもうどこにもなかった
「……お邪魔します」
はじめて開けるドアに遠慮をした
その向こうには母ちゃんが布団の中に丸まっとった
うちの手を握った手は思い出よりも冷たくて
もとずっと小さかったことに心臓をつかまれた
うちは煙突群に赤丸が突き刺さるのをただ一人眺めとった
「きれいやなーー……」気がつけばあの頃の父ちゃんと同じ言葉を呟いていた
なんや。急に放り出された気分やわ
そう思ったら鼻の奥があくびをしたがりだしよったんよ

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