第55回(2021) 佳作 生田麻也子

第55回(2021) 佳作 生田麻也子

●羽化  生田 麻也子

歳をとり
丸くなる背の中で
飛び立つ為の羽が育つ
腕はたるみ
風を抱き込み
味方につける準備をする
骨は軽くなり
助走のいらない羽化に
脚は萎えていく
髪は薄く細く白く
空の色に染まりやすく
柔軟になる

タンポポの綿毛のように
旅立ちは晴れが良い
しかし
降り立った時と同じで選べない
それは多分
天へ向かうものと
地へ向かうもので
きっと空が
わさわさするから

羽化は一瞬
姿は見えない
でも
ああ今飛んでいっちゃったと分かるのは
魂の重さ分すっと軽くなるから

重たい雪が降ると
飛び続けられなかった魂が
ずんずんと積もっていくようで
その白い冷たさは
辛く悲しい

雪がとけだし
陽がゆらゆらと輝き
空気が動き始めたら
私は光に向かって
小さく手を振る

見えない
知らない
誰かに届く気がして

受賞のことば
この度は新人賞佳作ありがとうございます。
沢山の作品の中から拾い上げていただき、信じられない思いです。積雪で外出できない私に代わり、締切り日に投函してくれた夫にも感謝です。
多くの方々の目に触れるのは、嬉しくもまた怖くもあり、亡くなった友と、私の腕の中で19歳と5か月でいってしまった猫を思いつつ、受賞の喜びを少しずつ味わっています。黄昏ていく道に、ぽっと灯りを見つけた気もしています。
ありがとうございました。

略歴
1949年宮崎県生まれ、鳥取県育ち。15年位前に小説家の友に出した手紙が「詩のようだ。」と言われ、詩作開始。7年前その友の病死で、詩作中断。今回、新聞の「詩人会議」の文字に惹かれ、詩作再開。

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