2019年11月号 特集 ありがとう

2019年11月号 特集 ありがとう


●目次

特集 ありがとう
上手宰 におい棒 4  妹背たかし おおきに 5  松田研之 十一月の夕方だった 6
佐藤和英 刻みをともに 7  小田凉子 産んでよかった 8  秋山陽子 アリガト 9
大嶋和子 うふふ 10  梅津弘子 病室で 11  伊藤眞司 おおきん祭り 12
滝本正雄 屈辱を孕んだ「ありがとう」 13  こまつかん いのちの脈動 14
あべふみこ 花束を 15  織田英華 先生 16  三浦千賀子 ミウラセンセイ元気? 17
上野崇之 母は強し! 18  佐藤誠二 母親って損な役割だろうか 19
西明寺多賀子 労いの挨拶 20  やはぎかのう 屋敷森に 21  いいむらすず 朝 22
目次ゆきこ しまってある 23  玉川侑香 お礼の品 34  北村真 朝の年輪 35
田畑悦子 隣り同士 36  きみあきら 歩く 37  呉屋比呂志 おおきに 38
南浜伊作 民宿の田んぼ 39  北島理恵子 手品 40  檀上桃子 白衣父 41
田上悦子 詩二篇 42  なかむらみつこ 新聞を畳めない男と 43
加藤徹 ありがでえ ありがでえ 44  大杉真 ボール投げ 45
石関みち子 できるだろうか 46  山﨑芳美 そんな幸せこんな幸せ 47
春街七草 言霊 48  山越敏生 読みつづける 49  後藤光治 幸福 50
田辺修 人生 51  乾葉子 八月の空に 52
小田切敬子 ありがとう議員さんたち 二〇一九年七月 53  加山みどり 髪の毛29本 54
坂杜宇 消えた言葉 55  大釜正明 これから広がる世界の確かさ 56

長詩 玄原冬子 朝顔 24  白根厚子 人間の体は一枚の皮袋で出来ている 28
おおむらたかじ わが農民詩人K氏の生涯 31

写真 狭間孝 33 57

おはなし 連れ合いへの愛を書く勇気  上手宰 58

報告 第44回夏の詩の学校  アルバム 66
参加者の感想 遠藤智与子 木村勝美 池田久雄 彼末れい子 68  三日間の記録 71

平和のつどい 74 参加者の感想 草野信子 玄原冬子 奈木丈 御供文範 76
原水禁世界大会・長崎 田中茂二郎 80 永山絹枝 81

エッセイ 桜隊原爆忌追悼会休止から再生の道を探る  近野十志夫 84

歌で紡ぐ日本と韓国――音楽高校生コンサート  戸田志香 90
「緊急集会 韓国は『敵』なのか」に参加して  楊原泰子 91

書評 清野裕子詩集『賑やかな家』  青木みつお 95
坂田トヨ子詩集『福岡県筑後地方の方言詩問わず語り』  南浜伊作 95

ひうちいし 石田百夏 今井志郎 山越敏生 上岡ひとみ 南地心爽 96

洲史小詩集  湧き水/蜂が飛ぶ/墓場と雪/塩甕と味噌樽 86

地下室の窓 終末はこのように来る  徐京植 92

見る・聞く・歩く 池田正彦 83

新入会作品 新村一成 99

詩作案内 わたしの好きな詩 松下育男  魚津かずこ 100

詩作入門 十一、旅の詩  中上哲夫 102

現代詩時評 心が呼吸するための空気 上手宰 104
詩  集  評 それぞれの詩業とその背景 くらやまこういち 106
詩  誌  評 詩は人の数ほど違うから面白い 田上悦子 109
グループ詩誌評 傷みやすい世界 宇宿一成 112

自由のひろば 選・柴田三吉/みもとけいこ/佐々木洋一 114
北川ただひと/平和ねんじ/サトウアツコ/落合郁夫/岩崎明/村田多恵子/御供文範

詩人会議通信 123 詩作2019報告 編集部 126 読者会報告 9月号 細田貴大 127
●表紙(「2017年スイス」)/扉写真 鄭周河 表紙写真あれこれ 柳裕子 128 編集手帳 128


●詩作品

におい棒  上手宰

初老の父は布団に入ると言ったものだ
「寝るが豊楽(ルビ ほうらく) 寝るが豊楽」
齢にそぐわぬ肉体労働がきつかったのか
すぐに眠りに落ちた
それが彼の「ありがとう」のようでもあり
どこか遠くへ消えていくようでもあった

若い頃の父はよく本を読んでくれた
寝床に居並ぶ四人の息子たちに
十五歳で大陸へ渡り敗戦まで暮らしたので
中国の物語が好きだった
私たちのお気に入りは『西遊記』で
觔斗雲(ルビ きんとうん)に乗った悟空が耳から如意棒を取り出し
巨大な獲物にして戦うのが痛快だった
私たちはそれを「におい棒」と憶えていたが
そのうち いつの間にか眠ってしまった
「ありがとう」を言う間もなく
耳に小さな棒を置き忘れたまま

年老いた夜更け 不思議な自然さで
ありがとうが自分の口から出て行ったことがある
誰に言ったのかとその後を追ってみた
父のところまで行くかと思えば
妻の寝床に辿り着いてその耳に届けている
私に似て遠くを目指す気概がない言葉たちである
だが父が見たら一番喜ぶだろう

夢やお話や囁きたちはみんな枕が好きだ
疲れた体と心が眠りに沈むのを支える小丘
枕の一番の友が そこに押し付けられた耳で
物置のように意味のない物ばかり保管している
忘れた頃 扉をあけると
「寝るが豊楽」や「におい棒」なんかが
驚いて薄目をあける
最後の時まで枕と耳がよい友であったことを
この国では「畳の上で死ぬ」という

 

 

 

●編集手帳

☆今月の特集は「ありがとう」です。
〝「ありがとう」の言葉は、人(他者)を大きく包みこむことができます〟というおもいに同感する人が多いのではないでしょうか。けれど実際はどうか、と考える人もいるでしょう。伝えられたら、受け取れたら、と、心の底にあった大切なものを記している作品が多いことに気づきます。それは他者の信頼をえたよろこびのようです。たしかに私たちは〝ありがとう〟と声をだす(心のなかでも)ことによって、その本当の意味を確認しているのです。
☆上手宰さんの「連れ合いへの愛を書く勇気」は、’19年夏の詩の学校でのおはなしです。〝愛を離れて詩は存在しうるのか〟の問いには、じっくり応えたい魅力があります。
☆9月9日、千葉県を直撃した最強級台風の甚大な被害に対して、政府の被災者支援13億円。イージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)には6000億もつぎ込むのに! 国民の生活=命を軽んじる思想との闘いです。(秋村宏)

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