第44回(2010) 詩部門佳作入選 平野加代子

第44回(2010) 詩部門佳作入選 平野加代子

詩部門佳作入選 平野加代子

1973年、新潟市生まれ。新潟市在住。


受賞のことば
ケヤキの木は雌雄同株なので雄の木も雌の木もありませんが、近所の公園にとても女性的な雰囲気のケヤキの木があるのです。
あのケヤキは女でも男でもないけれど多分女だろうと私は思う、あのケヤキはどう見ても女だ、いや女というより母性を感じる、あのケヤキは私の母のような気がする、あのケヤキは私の母であってほしい、というような思いで以前何編か詩を書いたことがありますが、今回のこの桂の木の詩は雄の木か雌の木か不明なので何となく気になる、どうにも気にかかる、という思いからできた詩です。
選んでくださった先生方、本当にありがとうございました。よい記念になりました。早速あの桂の木にも報告したいと思います。


そうなるよりは  平野 加代子

桂の木も雌雄異株だというし
そうすると公園のあの桂の木は
紳士なのか淑女なのかと
何だかちょっと気になって

あの桂の木が早乙女ですよという場合
いつか白馬に乗った王子様が目の前に
現れてくるというような日を夢見て
来る日も来る日も待ちわびて
いたりするかもしれなくて
何だか私もちょっと胸が
甘くせつなくなってくるけれど

もしあの桂が野郎だぜよという場合
たぎる情熱で胸苦しくてもう
じっとしているのがつらくてつらくて
いてもたってもいられないような
狂おしさで一夜に千里を駈けたいような
思いに日々苛まれているのかもしれなくて
それはまたそれで何だか私も
ちょっとやるせなくなってくるようで

やっぱり雄の木の傍には雌の木を
雌の木の傍には雄の木を
対で植えてもらいたいような
そんな気分になってくる
公園に生えているあの一本の
桂の木を見る度に私は
あの桂の木の葉が男心か女心か
まだよくわからないのだけれど
独り身でいるかと思うと何だか
ほっとけないような気がしてきて
私でよければ……とか何とか
言いたいような気分になってくるけれど
結構です とか言われたらちょっと
傷つくけれど正直落ち込むだろうけど

まあ対で植えてあったとしても
もしかしてどうにもこうにも相性が
合わないとかいう場合それこそ気の毒だし
もう傍にいるのもいやだとか
そういう場合動けないので辛抱辛抱と
毎日毎日ストレスを溜め込んで
しまいにどちらか枯れてしまうとか
どちらも枯れてしまうとか
そうなるよりはまあ独り身でいる方が
幸せなのかもしれないし実は隣の
ハナミズキに惚れているとかだとしても
誰も咎める者もないわけだけど

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