第44回(2010) 詩部門佳作入選 中村花木

第44回(2010) 詩部門佳作入選 中村花木

詩部門佳作入選 中村花木

1949年群馬県生まれ。前橋市在住。自他ともに中年と認めはじめる頃、初めて俳句をひねり出し、文芸作品を創ることに目覚めました。今では、詩作・句作に生かされている思いです。


受賞のことば

誰もが秘めているはずの原風景。わたしの中のその一シーンを詩に書いてみました。
六〇年も生きて来て、いまも思い出してやまない風景こそ、ポエジーの棲家なのでしょう。つまり、半生の道程のそちこち、あれこれが、詩の世界を支えていると、考えるべきなのでしょう。
この詩に宿る、原初的な連帯感が、わたしの成人後の思想形成や生き方を決めたと信じています。
わたしを支えてくださる大勢のみなさまに、あらためて、このたびの受賞の御礼を申し上げます。ありがとうございました。


変色する流域  中村 花木
斧は振り上げられ
光る弧を
鋭く
大きく
描きながら
くるっと一回転して
黒牛の眉間を一撃で砕いた

前脚をたたむように
崩れ込んだ巨体は
そのまま横たわり
ぴくりとも動かなくなった

屈強の男が斧を杖に荒息をつく
補助者が黒牛の腹を裂くと
しとどに血が吹き出た

広瀬川の蛇行が変色する
この辺りは
北に赤城山を望み
いちめんの麦畑は
雲雀がさえずったりしていて
むせ返るほど
心地よかったものだ

岸に突き出た土管から
血の排水は注ぎ込み

黒とも赤ともつかない屠殺の流域

幼年の頃
わたしは
あくびしながら
鮮血の岸辺にひとりで遊んだ

その水際の淀みから
高々と斧を振り上げ
荒息を切らす男が こっちに笑いかけてくる

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