くらやまこういち詩集『五分歩けば池がある』
詩 集:『五分歩けば池がある』
作 者:くらやまこういち
発 行:2020年9月1日
発行所:詩人会議出版
頒 価:2000円
作者紹介
1956年宮崎県生まれ
既刊詩集
『お空のできごと』(2006)
『生きっちょいさっさ』(2017)
杉谷昭人による跋:抜粋
「全一巻に収められた詩のテーマすべてが、霧島連山の麓に営まれている人々の生活・生業に求められており、その多様さ、多彩さが肌理こまかに描かれている」
「一編ごとのモチーフは小さくとも、その多彩さには目を見張るものがある。それを器用さなどと考えてはいけない。それは現実に対する関心の深さ、観察の確かさなのだ」
宿題(部分)
ここには俺の未来はないと
十五で東京への汽車に乗った
入学した夜学の担任は一月過ぎたころ
急で申し訳ないですが
私は今週で先生を辞めます
夢だったアメリカへ行くことになりました
あなたたちも夢に向かって頑張ってください
と テレビドラマのように去っていった
代わった担任は勝気な新任先生で
職員会議でベテラン先生たちに
納得できない考えを強いられたと
教室に泣きながら戻って来たり
きょうは小菅刑務所に面会に行ったと
学生運動家だった彼氏の話をした
それでも僕らの卒業と同時に退職し
サンバの国へ踊るように飛んで行った
(以下略)
やじろべえ
気づいたら人間の中の子どもで
焼酎を飲む夜は声が大きくなる
父ちゃんという人がいて
いつも起きていて甘えたくなる
母ちゃんという人がいて
口うるさいが遊んでもくれる
姉ちゃんという人がいて
それを家族ということに気づいた
家の屋根が藁であることや
それでも瓦の家がうらやましいとは
だれも言わないことや
犬でも 牛でも 蛙でも
どこか瓦の屋根のだれかでもなく
自分に生まれたことは
もう代われないことにも気づいた
やがて 何かにつけての劣等感と
一方では厄介なほど頑固な自尊心と
その二つが いつも
付き纏っていることにも気づいた
そして その二つの関係が
どちらに傾いても落ちない
やじろべえのように
心のバランスになっていることにも