岡田直樹「宿題」
宿題 岡田直樹
ええ、大好きなあの子たちは
のこらず立派に卒業していきました
あの子たちとの出会いは、
わたしが大学を卒業したころ。
たずねていったのは駅前の大きな病院
生きることすら綱渡りのような
難病の子たちの学級です。
ベッドのなかで正座していた彼らと
さっそくはじめの授業でした。
えんぴつで輪郭をとり
彩色していくのを教えるときは、
『先生、やるじゃない、』
授業がすすむにつれ、
『やすむ暇をあたえないで、
ぼくらには時間がないんだ、』
そんな風に言っているようでした。
そこでわたしは、
宿題を課すようにしました。
なるべく時間のかかる宿題を。
長い休みが終わるでしょう?
するとひとりのこらず、
誇らしげに宿題を提出するのです。
『すべてがおじゃんになるよ、
けれど、ぼくらは
明日のために宿題をするんだ、』
そんな声が聞こえるようでした。
ええ、あの子たちは卒業し、
ひとり残らず亡くなりました。
けれど彼らの明日は確かにあって、
はるか先へつづいている。
ずっとずっと見えないほど先へ
進んでいる気がするのです。
もうすぐ桜の季節。あの子たちの
後輩たちがあつまる日が来ますよ。