野口やよい「ブラウス」

野口やよい「ブラウス」

ブラウス  野口やよい

結婚して間もない頃
義母が遠慮がちにさしだした

千の紋白蝶が集まったような
レースのブラウス

折角ですけど、と断って
なにかを守ったつもりだった私は
早い林檎のように真っ青で
産毛まで硬かっただろう

受け取ることは与えること
そのための時間は
あまり残されていなかったのに

女の子が欲しくて
自分の息子をスー子と呼んだ人
春にはひな人形を飾った人

ブラウスと一緒に
その人の失望は
また箪笥の奥にしまわれた

クローゼットを開いて
白シャツを手にとる
さらさらという
遠い羽ばたきに似た音がする

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