望月はる子「ボタン」

望月はる子「ボタン」

ボタン  望月はる子

瓶の中のボタン
蓋を開けると
あの日が跳び出す
これは初めて作ったブレザー
これはお気に入りのビーチウェア
学生服の金ボタンは誰の物だったのか
ゴム付きのくるみボタンは娘のために
顔や声が景色をつれてくる
弾む一つ一つを
掌にのせ転がすと
かわいた音がする
この服にはこれを
あのバックにはあれを
拘りのあった遠き日
こんなもの
その気になれば
いつだって 捨てられる
と思ったはずの手が
また そっと棚に置く
梅雨の夜

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