自由のひろば選(2020.9)

自由のひろば選(2020.9)

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一羽の鳥  青木まや

林檎やイチゴを食べにくるヒヨドリは
農家にとっては困った鳥だが
美食家らしい
それよりも何よりも
いつも二羽で動き回り
仲良き鳥と見ていたのだが…

ベランダに出した万両を狙いに来た
一冬中目を楽しませてくれた赤い実を
慌てて取り込んだのだが
「ビューョ オーイ赤い実を出せ
ビューョ ビューョ」
大きな声で鳴き
ミラーガラスには体当たりをする
執念深い図太いやつだ
こういうのは人間にもいるよなーと
軟な考えを巡らしている間にも
何度も何度も繰り返す
家の中では其のあり様に脅え
吠えながらもしがみ付いてくる仔

手すりとミラーガラスには
紙を貼り風にまかせた
事はこれで終わったかと思ったのだが
恐れることなく来ては鳴く
翌日も朝から「ビューョ」
しつこいやつだ

万両の実はそんなに美味しいのか?
ミラーガラスに映っているのは
おまえの姿だよ
独りぼっちは寂しいか
椿も梅も咲いた
嬉しい恋の季節はもうすぐだ
それまでの辛抱だよ
ほら春本番はすぐそこまで来ているのだから

 

●選評

選評=都月次郎
昔窓ガラスに野鳥がぶつかって庭に落ちたことがある。そのときはガラスにくっきりと青空が映っていたので、空と間違えたのかと思っていたが、今はなわばりへの侵入者に対するアタックではなかったかと思い直している。万両の実は自分のものと思っていたのに、突然なくなってしまったことへの怒りか、ガラスに映る侵入者への攻撃か、ほんとのところはヒヨドリに訊いてみないとわからないが、弱肉強食の自然界で生きる者たちは、きっと人間の知らないいろんな顔を持っている。

選評=草野信子
タイトルに魅力を感じました。ヒヨドリを描いていますが、ヒヨドリ一般ではなく「一羽の鳥」。青木さんは、一羽のヒヨドリを個として識別されている。「執念深い図太いやつ」「しつこいやつ」という言葉もそこから発せられています。それが、最終連のしみじみとした呼びかけへと繋がっていったのでしょう。骨太な声での、温かい呼びかけです。最終行の末尾に「~のだから」と説明を感じさせる言葉が付いているのが少し残念です。一度「のだから」を消して読んでみてください。

選評=佐々木洋一
ヒヨドリの、時に愛くるしい、時に執拗な様子がしっかりと観察され、描写されています。それは、日常の様々な出来事に、作者の愛情が注がれているあかし。ヒヨドリが、万両の実を必死に求めるのは、他に実がないせいで、いつまでも残っている赤い実は、まずくはないがうまくはないもの。春になれば、ヒヨドリはうまい実もパートナーも手に入れることになるでしょう。その頃は、とても騒々しくなりますが。日常の中に人以外の鳥がいることの安堵、温もりを感じます。

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