第37回(2003) 詩部門入選 木目夏「植民地的息」

第37回(2003) 詩部門入選 木目夏「植民地的息」

詩部門入選 木目夏「植民地的息」


木目 夏
1964年 北海道生まれ。事務員。
詩人会議グループ 風歌 所属。


受賞のことば

入選の電話を頂いた時、どうしょうかと思い震えを押さえながらの対応でした。昨年、通勤途中の図書館で壷井繁治氏の詩論を見つけ、働きながら書く事についても述べられていて、勇気づけられました。そしてもっと先達の恩恵を学び知恵をお借りしても良いのだと感じ、古典から現代書まで尋ね歩き、模索をしているところです。
この私にとって今回の受賞はまぶしい光が差し込んできた様でした。現在の環境と家族とに、また「風歌」の皆さんにも感謝します。
賞は大変重いものですが、持ちこたえられるよう励みたいと思います。
選考委員の皆様、ありがとうございました。


植民地的息 木目 夏

夜の台所にいる私
その頭の中は
獲物を追うライオンが一頭
走りっぱなし

チラシの特価に目星をつけ
サイフをひらき
明日の算段
決してチラシに踊らされるな
ネコジャラシの前で サイフを落とすな
日に日に育つ子どもたち
例外にもれぬ手取りの下降線
二本の折れ線グラフの上と下の間
広がる荒野に立つ 夜のライオン

吐息は ふたたび三たび
くちなかに 熱く 帯まる

流しの水といっしょに
捨てていた ため息を
ポイントカードに換算したら
どれ程の熱量になる
どれ程の返金になる
どれ程の怒りに
いや
まず
人になろうか
シグナルのような吐息
時には冷却水の長息
幾億の息を発する私
生まれ続ける 息

この息をたずさえ
まず
人になろうか

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