第55回(2021) 佳作 渡邊あみ
●青いマフラー 渡邊 あみ
いつも喧嘩ばかりしていても
心は繋がっているものなのだと言う
言ってはいけない二文字を言っても二人は
今日も明日も昨日のように暮らす
不思議だ
手術の日に祖父は青いマフラーをしていた
几帳面に並んだそれは多分
祖母の編み目
ずっと病室の外で新聞を読んでいて
心配しない
素っ気ないフリをしていて
暖房で火照る顔でも外さないマフラー
手術室に向かうエレベーターホールで
手を優しく握ってみた祖父に
祖母はパパ菌が移るわと笑った
滅菌の世界に消えていく祖母は幸せそうに
祖父は心配そうに目を合わせた
マフラーをつけたまま
青いマフラーを外さないまま
長い時間を過ごした
弥生の空に星が浮かんできた頃
祖母の麻酔がようやく覚めた
祖父の目に映った祖母
祖母の目に映った祖父
安堵し揺れる瞳
そこにもやはり青いマフラー
受賞のことば
この度はこのような歴史ある賞をいただき、ありがとうございます。この詩は祖母が手術をし、病院から自宅へ帰る間に作ったものです。言葉を交わさなくても、祈りは伝わる、それを繋いだものが青いマフラーだったのだと、想像が膨らみ、コロナ禍の不安な心に温かく溢れてくる言葉を留めようと詩作したのを覚えています。
詩を続けられたのは、短歌があったからだと思います。短歌は私の創作の基となり、表現の工夫によって、遊ぶことの楽しみを味わうことができました。各々の感受性によって受け取り方が変わる作品を目指すことで、読んで頂いた相手から予想もしない感想が返ってくることが面白く、苦手な散文にも挑戦することができたのだと思います。無理に纏めようとせず、表現の企みが生かせるようにすることが今後の詩作の課題です。この賞を頂けたことを励みに文芸創作の幅を広げて行きたいと思います。本当にありがとうございました。
略歴
2002年徳島県に生まれる。本年3月徳島県立阿波高等学校卒業。