秋村宏 詩の世界

秋村宏 詩の世界

いきもののために捧げる詩

すずめ

すずめは米や麦をことわりもなしにくってしまう

けれど百姓たちは、まとめて殺すことはしなかった

じぶんの分身を畑やたんぼのなかに立てて

どこかにいけ、と指さすのだった

 

牛は車をひっぱってまた土を運びにきた

牛はとしをとっていたのでいつもゆっくりとあるいていた

牛は男が売る土がすくなくなっていくのをよだれをたらしてみてい た

牛は休みをながくながくつづけたいようだった

牛は小便をし大きなくそをしてから重い荷物をひっぱった

牛は坂道にくると木の枝の鞭で尻をたたかれた

牛は車につまれた壁土でじぶんを塗りこむようにあるいた

牛は足跡を深くのこしていったので畦道がこわれた

牛はまもなく安く売られてしまった

牛は屠殺されたんぼも売られてしまった

牛は百姓といっしょに消えてしまった

 

竹林

一年まえまで

竹林のあったところで

風は

蛇のかたちで吹く

ムジナのかたちで吹く

鳥のかたちで吹く

すると

つまっている家々のなかから

人のみている夢の蝙蝠が

とびたつ

 

ほたる

ほたるはもう死に絶えてしまったから

白状するよ

いつかぼくは

ほうきをもって川にいき

こっちの水はあーまいぞー

ほたるにいって

つかまえてしまったんだ

 

 

風をつくるのは木だ

 

夜 おそろしい夢が走ってきた

 

木がなければいいんだ

 

戦争で ふといケヤキが伐りたおされると

風は 手で 強く ぼくをなぐった

 

れんげ

れんげはいきもののこころをつかんでくれるのだった

ねころぶと、百姓のおもいがつたわっていくのがわかった

ひとつひとつつつましやかに、地を這っているれんげ

それは美しく、哀しい飢えのようでもあった

だがみまわすと、それはいきものの壮大なうねりだった


(秋村宏詩集『夜のための歌』1971年12月刊より)

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