自由のひろば選(2020.10)
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あおぞらの詩 小篠真琴
あおいろのそらの向こう側
太陽がうつむき加減を失くしていくとき
きみは、あおいそらの切れ端を
くちびるで押さえて
歯茎からまっ赤な血を流す
すると、抑えていた感情が
分離したヨーグルトの上澄みみたいに
すこしすきとおって流れ出すから
その流れた部分を、ぼくは
きみと十分に味わえるようにと
カスタードクリームに混ぜ合わせていく
地球儀のコマはくるくる回って
あしたからの風を、東方へ送り出した
夕闇は、もうすぐそこだよ
あおいろのそらは
もう用がないと言われた気分になり
すこし哀しくなったのだから
自信を取り戻した太陽と
くるくる回った地球儀のそばで
できるかぎりの愛妻家ぶりをはっきする
それが、じぶんと地球との
これから長いお付き合いの始まりだと
あおいそらだけは知っていて
無防備な地球は
アリの行列を見守るくらいしか
できない気になって
やっぱり、太陽は
東側に沈むんだなと
迎え入れられた夕闇に問いかけていた
本能は、こっそりと臍を嚙む
●選評
選評=草野信子
その色、その美しさを、どのような言葉で伝えたらいいのだろう。そんな夕焼けに出会う日があります。小篠さんは、喩によって、刻々と変わる空の色とともに夕焼けを描写しています。そして、それは「きみ」と「ぼく」との関係を語る喩へと進んでいきます。「やっぱり、太陽は/東側に沈むんだな」という言葉は、自己中心的な「きみ」、どこか頑是ない「きみ」を物語るのでしょうか。それゆえ「こっそりと臍を噛む」のですが、また、それゆえに「ぼく」の「きみ」への愛が、決意のようなものとして伝わってきます。
選評=佐々木洋一
直喩や形容、言い回しによって徐々に対象の輪郭が現れてきます。動機はそれほど強くなくとも、ふくらみを持たせたことで柔軟性のある内容となっており、新鮮です。ただ、この作品は青春の思いなのか、あおぞらへの淡い心情なのか、感覚的には捉えられたとしても、結果として明確でない気がします。全体的に漠然としたイメージが付き纏いますが、小篠さん独特の世界があります。
選評=都月次郎
シュールな絵です。あおいろのそらが作者だとしたら、足が天にある逆立ちの姿勢で、世界を見ている。だから太陽も東に沈む。大きな宇宙とアリの行列の対比は面白い。アリの行列はいくらでも見ていられる。