38回(2010)『固い薔薇』宇宿一成
略 歴
一九六一年、鹿児島県生まれ。
二〇〇二年、詩人会議新人賞。
二〇〇二年度、南日本文学賞。
詩集に『春の挨拶』『燃える船』『光のしっぽ』『固い薔薇』。
参加詩誌『詩創』『天秤宮』『野路』『PO』『COAL SACK』。
博士(医学)、皮膚科専門医。
受賞のことば
命の輝きを芯に 宇宿 一成
このたびは壺井繁治賞に選んでいただきありがとうございます。推薦して下さった方、選考委員の方、詩集を読んで下さった皆さまにお礼申し上げます。壺井賞をこれまでに受けてこられた方たちとともに、壺井繁治の名に連なることができたことを誇りに思い、ますます精進せねばと思っています。
固い薔薇という詩の題材になったのは、大学病院に勤務していた頃の患者さんの記憶です。日本にはATLという難病があります。その病因となるウイルスには多くの日本人が母子感染によって感染しているといわれているのですが、発症することは稀です。このウイルスのキャリアは、南九州で高頻度に見られ、弥生人に追われた縄文人にみられる感染症なのではないかという見方もされています。アフリカでは鎌形赤血球貧血症にかかった人はマラリアに感染しにくいというような疾病利得があり、縄文人はHTLV-1の感染を何と引き換えに許したのだろうと空想することもあります。
病と向き合い、あるいは倒れる人たちの姿を描くことが、私にとって命の意味を考えるよすがとなっています。
戦争や飢餓で多くの命が失われた時代、死はだれしもに身近なものだったのだろうと思います。幸い私は戦争を経験せず飢えることもなく毎日を送っています。けれど世界には貧困や飢えや戦争に今なお苦しむ多くの人々がいます。その悲しみを他人事のように感じてはいけないでしょう。命の意味は、死を思うことで研ぎ澄まされると考え続けています。多くの優れた詩集を読む機会に恵まれ、これからまた、どのように私の詩が変化してゆくのかわかりません。私は未だに発展途上の書き手ですから。それでも、命の輝きを芯にもっていたいと思っています。