野口やよい「ブラウス」
ブラウス 野口やよい
結婚して間もない頃
義母が遠慮がちにさしだした
千の紋白蝶が集まったような
レースのブラウス
折角ですけど、と断って
なにかを守ったつもりだった私は
早い林檎のように真っ青で
産毛まで硬かっただろう
受け取ることは与えること
そのための時間は
あまり残されていなかったのに
女の子が欲しくて
自分の息子をスー子と呼んだ人
春にはひな人形を飾った人
ブラウスと一緒に
その人の失望は
また箪笥の奥にしまわれた
*
クローゼットを開いて
白シャツを手にとる
さらさらという
遠い羽ばたきに似た音がする