2020年7月号 特集 短詩――96人集

2020年7月号 特集 短詩――96人集

●目次

特集 短詩――96人集
秋村宏 いま 6  葵生川玲 麻痺 6  青井耿子 暖冬異変 6  青木まや 心得 6
池島洋 三姉妹 7  いいむらすず 見えないものに 7  池澤眞一 座視 7
安曇野彩 歩く 7  石関みち子 コロナの春は 8  石渡貴久 横浜大空襲防空壕避難体験 8
伊勢薫 思うと言う事 8  伊藤公久 長生きをして 8  伊藤眞司 ふるさと 9
妹背たかし 秋 9  いわじろう 何かに 9  植田文隆 有明海 9
梅津弘子 アベマスク 10  上野崇之 坪庭の風物詩 10  遠藤智与子 せかいの はじまり 10
大釜正明 彫貌 10  大塚史朗 どこかに春が 11  大西はな そこへ 11
おおむらたかじ 付け木 11  岡田忠昭 見えないけれど 11  奥田史郎 普通と不通 12
小田凉子 母のミシン 12  小田切敬子 コロナ ラプソディ 12

加藤三朗 上野駅 12  加藤徹 マスク 13  上手宰 マスクごしの春 13
神流里子 祖母の神さま 13  上條和子 買い物 13  川花まほ いかの目も 14
上山雪香 故郷 14  きみあきら 武器 14  草倉哲夫 呼ぶ 14
黒鉄太郎 命よりおふざけか? 15  小泉克弥 戦略家 15  こまつかん 随意 15
小森香子 心の眼をひらいて 15  呉屋比呂志 薄紅のナスタチウム 16

西明寺多賀子 日本茶 16  汐見由比 折り鶴 16  斎藤彰吾 宇宙からの声 16
志田昌教 ある光景 17  玄原冬子 またの日まで 17  洲史 辞められない 17
清水マサ 言葉 17  白石小瓶 古茶 18  白根厚子 裂き織り 18  新間芳子 ガラケイ 18
菅原健三郎 床屋の鏡 18  鈴木義夫 バンザイ 19  鈴木太郎 傘寿とやら 19

平由美子 畑にて 19  髙嶋英夫 希望 19  滝沢ひろし むりに通す 20
田上悦子 近未来都市幻想 20  立会川二郎 マスク 20
たなかすみえ 太陽のようだけれど 20  塚田英子 平常心 21  天王谷一 虚空 21
田辺修 旧街道 21  檀上桃子 星のグミ 21  遠野辺墨 栗拾い 22
床嶋まちこ 不要不急 22  斗沢テルオ ひたひたと― 22

長居煎 増殖する冠 22  永山絹枝 包む 23  永井秀次郎 シーランス 23
奈木丈 怪獣と出会った 23  野川ありき コロナウイルス 23  野口やよい 手袋 24

狭間孝 手話新語 24  はなすみまこと 朝 24  浜本はつえ 技能実習生 24
林彰子 救い 25  春街七草 いいね 25  坂杜宇 正しい! 25  阪南太郎 わからない 25
府川きよし 日本大使館 26  平和ねんじ 生きる 26

松村惠子 気持ち 26  まえだ豊 僕ら 26  水衣糸 深呼吸 27
水崎野里子 老人の食事 27  御供文範 桜の悲しみ 27  南浜伊作 コロナ禍に 27
村上ますえ アベノマスク 28

山﨑芳美 春なのに 28  やはぎかのう チャイニーズ 28  山崎由紀子 せめて一つ 28
山田みとり 現場から 二〇二〇 夏。 29  山田よう 百年に一度、千年に一度の 29

渡世志保 夏の終わりに 29  和田平司 菜の花 29

 

詩人会議グループ誌作品集
服部昭代 毒吐く人々 34  後藤光治 蝶 35  田崎以公夫 よくぞ来てくれたね 36
おだじろう あの時の母のこと 37  中奥英子 正しい敬語 38  南美智子 リレー 39
浜島れい子 帰り道 40  おおしまふみこ 石蕗の花 41  岩本健 父よ 母よ 42
神野忠弘 あさがお 43  速水晃 一九四五年八月一五日 43  刀根蛍之介 ピアノ 44
山内由美子 消しゴム 45  のざきつねお 心の故郷 46  吉田超 2019年・秋から冬へ 47
佐野周一 野鳥が居ない 48  石川あい 海 49  国枝健 ペリカン万年筆 50
大原加津緒 ハグするだけ 51  いいだかずこ 明かり 52  平林健次 歪の原因 53
小野啓子 糸屋さん 53  浜田とうへえ 草の根 54

 

エッセイ 詩と民主主義の原点  青木みつお 30

新人賞 第54回詩人会議新人賞  評論部門・佳作
塔和子の尊厳 田中淳一 56

書評 永山絹枝『魂の教育者詩人近藤益雄』  南浜伊作 74

ひうちいし 芳川勝 こまつかん 池島洋 植田文隆 青井崇浩 70

私の推す一篇 2020年6月号 75

宮沢一小詩集  永山記念公園にて/自分が分からなくなる/4月10日の酒乱/生まれて来なかった方が 66

詩作案内 わたしの好きな詩 茨木のり子  加藤徹 76

詩作入門 七、創作わらべうたのこと  有馬敲 78

現代詩時評 いのちを享けた意味 柴田三吉 80
詩  誌  評 どんな時も心に灯をともす詩 高田真 82
グループ詩誌評 読む人を豊かにする 宍戸ひろゆき 84

自由のひろば 選・草野信子/佐々木洋一/都月次郎 86
サトウアツコ/御供文範/岡村直子/むらやませつこ/小田凉子/立会川二郎/藤丘悠河

詩人会議グループ一覧 98 新基地建設反対名護共同センターニュース 99 詩人会議通信 95
●表紙(「2019年ベトナム」)/扉カット 鄭周河 表紙写真あれこれ 柳裕子 100 編集手帳 100


●特集 短詩

いま   秋村 宏

闇がみえるのは
ひかりがあるうちだ

 

 

麻痺   葵生川 玲

日々に重ねられる感染者の数字が
妙な棒グラフの 上下する波になって
心を揺らしている。
世界は
共振する麻痺のなかにある。

 

 

暖冬異変   青井 耿子

開花予想が出た
その前に、そのまえに
雪化粧させてやりたかったな
私も住んでる老人ホームの
中庭の桜の枝に

 

 

心得   青木 まや

人は云う 器用な人はなんでも出来ると
だが父は ただ器用だから出来るのではない
勉強し努力するから出来るのだと諭す
父の姿をみて
確かにそうだと胸に刻んだ在りし日


●編集手帳

☆本号の特集は「短詩」です。この特集は、たしか二〇〇一年からつづいている企画です。それは、参加しやすいということがあるかもしれません。そこには短い詩であれば、という思いもあるでしょう。短詩についての独自な方法をもつ人が現れてもいいのではないでしょうか。
☆「私の一篇」は、新設の欄です。前号で、もっとも良いと思われた作品を推選していただくものです。作品批評は、読者会や半年ごとの合評座談会がありますが、さらに多くの人の、素早い批評があれば創作への刺激になるのでは、と考えます。今後、毎月、目を通していただければ幸いです。
☆田中淳一さんの評論「塔和子の尊厳」は、塔和子の詩をさらに読みたくなる力をもっている作品です。
☆安倍政権が今国会で〝検察庁法改正案〟の成立を断念させた〝ツイッターデモ〟は七〇〇万件を超えたとも報じられています。意見表明の方法の新しさと暮らしのなかで政治を感じた市民の力を感じます。民意を無視した法案は廃案に。(秋村宏)


 

●現代詩時評

いのちを享けた意味
柴田三吉

二〇一六年に起きた「津久井やまゆり園殺傷事件」の一審判決(三月十六日)で、植松被告に死刑が言い渡された。被告は控訴せず刑が確定した。
事件を起こした動機が、「障害者は生きている価値がない」という歪んだ考えであったため、社会もこの判決を当然のこととして受け止めた。
たしかに許し難い犯罪ではあるが、私は、この判決に同意しない。被害者と家族の苦しみは想像を絶するほど大きく、その傷に他者が触れられないことを承知の上で言うのだが、私は死刑制度そのものに反対だからだ。
罪の償いを刑の執行で終わらすべきではない、というのがその理由である。罪を犯した者には、自らの行いと最後まで向き合っていく責務がある。社会の側も彼らを内に抱え込み、出来事の意味を考え続けていく必要があるだろう。死による清算はそうした営みを放棄し、何かが終わったという錯覚を人々に与えかねない。人と社会の闇は闇のまま残されてしまうのだ。
また国家による殺人を、私はどんな場合も容認しない。それは「目には目を」といった報復手段であり(戦争もその一つだ)、人間の理性を衰弱させる制度だからである。死刑もまた犯罪であると規定されるべきだろう。
やまゆり園事件の背景には社会的弱者に対する差別や無理解がある。そうした風潮をなくし、命の大切さ、慈しみの心を育てていく努力が必要で、私たちの詩もその繋がりの中にありたい。こうしたことを考えていたとき、優れた詩集が二冊届き、胸を打たれた。
伊藤芳博『いのち/こばと』は、特別支援学校の教員経験から、障害を持った子どもとその親の、生の輝きを記した作品を中心に編まれている。
巻頭詩「いのち/えらぶ」では、生まれて間もない子が、将来、障害を持って生きていかなければならないと告げられる。病院から帰る電車の中、母親はいきなり突きつけられた不安に悶々とする。だが、それまで笑ったことのない子から柔らかな笑みを送られた瞬間、母親はわれに返り「この子はわたしたちを選んで生まれてきたのだ」と気づかされる。
ここから伊藤氏は、支援学校の子どもたちの姿を、愛情をもって描いていく。「いのち/ふしぎ」を引用する。

レイちゃんは いつもにこにこ/どこでもにこにこ/ヤジロベエのようにゆれている/よこによこに/けれども/まえにすすんでいくふしぎだなあ/(中略)/「お母さん どうしてレイちゃんは/どんなときでもにこにこしていられるんですか」なんでもないことのように返ってきた/「わたしのお腹のなかに/怒りと悲しみを置いてきてしまったので/わたしが代わりに/いつも怒ったり悲しんだりしています」お母さんの絶望と希望のなかを/レイちゃんは/ゆらゆらすすんでいく/腹の据わったという表現があるが/表現ではなく覚悟なんだ/なにも言わないレイちゃんの/ゆらゆらとした表現の支点に/お母さんの覚悟が座っている

覚悟の中から生まれた愛情が、家族の生を豊かにしていくのである。
もう一冊は、北川ただひと『私からわたしへ』である。こちらはA4の紙に印刷した詩をホッチキスで止めた簡易な作りだが、著者自身の絵や写真も配置された温もりのある詩集だ。
北川氏は長年福祉の相談員をされてきた方で、そうした経験から生まれた詩を「自由のひろば」等で発表してきた。ここにも、社会の援助を必要とする高齢者を描いた作品が多く収められている。作品のバックボーンにたしかな認識力と論理的思考があるが、北川氏はそれをストレートに出さず、柔らかい物語に転換していく。「橇のマット」を全行引用する。

玄関の上がりかまちの前で/エーッと声をたててしまいました/マットに寝かせたお母さんを/マットごとひきずってきたのですこのほうが楽なんです/庭を見たいときは縁側に/トイレのときはその前まで/ゆっくりですから心配ありません/母は喜んでいます/橇にのっている気分だねって相談員のわたしは/介護ベッドの話はやめにしました/目の前の磨かれた床に/工夫と丁寧と信頼が/どっかりと在るのです

生は個の中で完結するのではない。他者との関わりによって育まれるものだ。「障害者は生きる価値がない」と言った人間にも手を差し伸べ、孤独から救い出していくこと。そこに社会の豊かさも生まれるのではないか。

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