2024年3月号 特集 東日本大震災13年

2024年3月号 特集 東日本大震災13年


●目次

特集 東日本大震災13年――震災詩アンソロジー
みちのく赤鬼人 壊れた街での挨拶は
田村正巳 二つの映像
永田豊 小さな光よ
照井良平 身分証明書
菅原健三郎 小さな家族の震災物語
芝憲子 稲わらのメルトダウン
北村真 ひくく さらに ひくく
城山地郎 瓦礫の中に神を捜す
瀬野とし 墨を磨る
若松丈太郎 籾米を秋の田に蒔く
くにさだきみ 除染
石川逸子 怒りの黒いビニール袋
木坂涼/アーサー・ビナード どこへ
木村廣 テレビ
根津光代 薔薇
草野信子 仙台ゆべし
白石かずこ 陸前高田の海辺の一本松への
きみあきら 生きていることが
吉村悟一 2012年7月16日
清野裕子 家
榊次郎 火を求め続けて
上手宰 七年後
白永一平 こっちだよと
中村純 波に還る
青木みつお 人間の眼をする牛
浅田杏子 躊躇する手
呉屋比呂志 夢・防護作業
おおむらたかじ 県境にて
立石百代子 仮設の隙間
滝本正雄 砂の声
齋藤貢 夕焼け売り
川澄敬子 りょうちゃん
木村勝美 町
柴田三吉 靴を洗う
黒鉄太郎 双葉町で空気を吸込んできた
いいむらすず 草を抜く
みもとけいこ えんえんと
斎藤彰吾 フクシマからの声
佐藤洋子 星になれない光が小聲を零していく
木村孝夫 十二の節目の中で

エッセイ
原発事故の現在 震災はどう描かれたか(前編)  齋藤貢
風化させまい、津波被害と原発事故  坂井勝

新春作品特集
みもとけいこ 戦場の足
坂杜宇 タイトロープ
田辺修 武器よさらば
櫻井美鈴 座間味にて
白石小瓶 アトとヒト
中村明美 ひとひの
いだ・むつつぎ 横浜の丘で私はリスと散歩する
呉屋比呂志 猪の奴め!
野口やよい 雲
柳瀬和美 答える
あさぎとち とうさん
大西はな 指が這う
松村惠子 オリヅルラン
飯泉昌子 動き出せば
池田久雄 占い
古野兼 えとゑとゆぇ
畑中暁来雄 陽春飲酒
河合恒生 死人花
渋谷卓男 くだらない記憶の一例
うえじょう晶 記憶

 

見る・聞く・歩く 芝憲子
私の推す一篇
ひうちいし 鄭周河 清水マサ 西明寺多賀子 加藤徹 佐藤和英
水崎野里子小詩集  追悼・有馬敲さんへ(水崎の聞き覚えた京都弁で)
詩作案内 わたしの好きな詩 三好豊一郎  長居煎
詩作入門 どこからでも飛んでくる言葉  あさぎとち
現代詩時評 秋村宏氏の訃報に寄せて 後藤光治
詩  集  評 「とおくとおく 空の高みで」 北島理恵子
詩  誌  評 ひとは生きるために生まれてきました 黒鉄太郎
グループ詩誌評 「創刊号」なんとも、いい響きだ。 河合政信

自由のひろば (選・中村明美/南浜伊作/坂田トヨ子)
坂田敬子/坂井傑/橋本敦士/大木武則/
わたなべとしえ/藍眞澄/耳成保一/赤井紫蘇/CHIBI

詩人会議通信
●表紙/扉カット/表紙のことば 山本明良
編集手帳
ごあんない


●新春詩作品

戦場の足
みもとけいこ

足のうらが
ときどき 思い出すのだ
石をふんだ時 全身が斜めになって宙に浮くのを
もんどりうって転げた 坂道の角度を

あれは坂道を登っていたのだな

上半身に重い物を背負っていたのだが
それが 何だったのか 知る由もない
足のうらが
ときどき 思い出すのだ
地響きのように
大砲の音が 地面を這って行ったのを

足のうらはおぼえているのだ いまでも
ただ振動として 大砲が
ビルを吹き飛ばし
鉄の破片が 刃物のように
とんできて そのとき
宙を舞いながら 見ていた風景も
光の色も

足のうらは覚えているのだが
ただ 右足と左足の
記憶がすこしの時間
ずれているようなので それが
気になって 気になって
何度も 確かめようとするのだ

右の足か
左の足か どちらか人の記憶では
ないのだろうか ともあれ
足はいま 大砲であいた穴に突き刺され
飛んでくる大砲の軌道を足うらで見あげている


●編集手帳

☆東日本大震災から十三年を迎えるにあたり「震災詩アンソロジー」を編みました。この間被災した方々は生活の再建に向けた努力を続け、新たな一歩を踏み出してきましたが、心身の傷は深く、今も癒えないばかりか、更なる困難に直面している方も多いと思います。アンソロジーを編む過程で、その悲しみや苦しさに深く触れることとなりました。
☆そうした中、福島第一原発の廃炉作業は技術的な壁に阻まれ、遅々として進んでいません。原子力災害は汚染地域の暮らしを破壊したままで、未来社会への多大な負債も遺されていきます。
☆いわき市在住、原発事故の不条理を一貫して書き続けてきた齋藤貢氏に、福島における詩の状況を書いていただきました。こちらも胸を打つ「震災詩アンソロジー」となっており、ご助力に感謝いたします。坂井勝氏の風化に抗うエッセイを併せてお読みください。
☆編集作業中に能登半島地震が発生。大変な被害の中、皆さまのご無事を心より祈らせていただきます。(柴田三吉)

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