2023年6月号 特集 いま、沖縄からの発信

2023年6月号 特集 いま、沖縄からの発信


特集 いま、沖縄からの発信

八重洋一郎 発火点
うえじょう晶 NO HATE
網谷厚子 沖縄哀歌
市原千佳子 ムラサキカタバミ
与那覇けい子 島
中正勇 地金
名嘉実貴 シマの空
小林圭朋 どこか おかしい
織つかさ 断たれた未来、その先に在る今
呉屋比呂志 守礼の邦へ
西銘郁和 唐旅
仲本瑩 海辺の民宿
坂田トヨ子 光の道
西原裕美 再生
島袋あさこ 手榴弾
芝憲子 天国記者
菅原健三郎 日本のなかの沖縄
雨野小夜美 太陽がジャスミンティーを飲み干すひととき
伊藤眞司 摩文仁の丘
いいむらすず 宮古島の友よ
小田凉子 沖縄平和ツアー
妹背たかし 二十才の忘れ物
床嶋まちこ 戦場だった島
春街七草 大和文化ではない日本文化
三村あきら 梅の花
野口やよい 南鳥島

エッセイ
沖縄の「そのとき」、「いま」、「これから」――変わらぬ「続く苦悩」  藤原健
戦争と平和の「リアリティ」  秋山道宏
第一列島線・南西諸島を再び捨て石として利用しないでいただきたい  松下博文
照る月は変わらないけれど  新城和博
辺野古座り込み九年  神谷毅
終わらない米軍の占領意識――沖縄における女性への性犯罪をとおして  宮城晴美
島の未来につないで生きるために紛争の解決は外交努力で!  上里清美

 

第51回壺井繁治賞  北村真詩集『朝の耳』
受賞詩集抄  受賞のことば  選評  選考経過
呑み込めないものを言葉で拾う  清野裕子

 

詩人会議グループ詩誌作品集3誌  選 秋村宏
船木耕喜 新版『資本論』を読む
佐野周一 「水鉄砲」の話
河勝重美 僕の山(の)手線、中央線

報告 原爆詩人・峠三吉を偲ぶ  河口悠介

書評 宇宿一成 坂田トヨ子詩集『父と出会う』

一般詩作品
木村孝夫 光る森
田島廣子 私は 此処にいるよ
飯泉昌子 うわさ
玄原冬子 きみをつれて
永冨衛 レジおばちゃんはすごい
斗沢テルオ 灯り

ひうちいし 横山ゆみ 加澄ひろし 櫻井美鈴 永山絹枝 石関みち子 宇宿一成

青木春菜小詩集  未完成の少女/マジカルナイト/食卓の思い出~納豆バス/「ただいま」の家路

四季連載 詩の見える風景・五度目の夏――この一行、その即興性  杉谷昭人

詩作案内 わたしの好きな詩 竹内浩三  石関みち子

詩作入門 証拠と想像力を活用して  奥田史郎

現代詩時評 危うさのありか 立原直人
詩  集  評 書かずにいられないこと 勝嶋啓太
詩  誌  評 共に生きる 野口やよい
グループ詩誌評 希望を見据える勇気 あらきひかる
見る・聞く・歩く 渋谷卓男

私の推す一篇 2023年5月号

自由のひろば (選・南浜伊作/坂田トヨ子/中村明美)
加澄ひろし/坂田敬子/橋本敦士/上野崇之/石木充子/
大木武則/大野美波/やまたか/植田文隆

寄贈詩誌・詩書
詩人会議通信
●表紙/扉カット/表紙のことば 冨田憲二
編集手帳


 

●詩作品

手榴弾
島袋あさこ

母が七十八年前のあの戦場をさまよっていた頃
負傷して助けを求める日本兵に
もう何もできないからと
僅かな黒砂糖をその口に含ませたという
その礼のつもりか
手榴弾をひとつ日本兵が呉れた
母はそれをハンカチに包み
モンペの腰に下げていた
五・六人が輪になり真ん中で
それを破裂させれば死ねるから
と言う言葉と共に

生きていることと死ぬことが
あまりにも近かったあの場所で
赤子を背負ったその手に
手榴弾を持つことは
母にとって大したことではなかったのだろうか

ところがそれを見つけた父親は怒って奪い取り
すぐにどこかへ捨ててしまった
父親のそれは命への希望だったのか
ただ人間としての本能だったのか

いよいよ六月も半ばになり
ぬかるみに足を捕られながら
隠れていた壕から追い出されたとき
運よく残された命だけがあった

その命を繋ぎ 繋いで
七十八年を昨日のことのように想いながら
生きてきた人たちの前に
壕のような地下シェルターを
差し出す人たちがいる

 

 

天国記者
芝憲子

いつも かならずいた
カメラを下げて 最前列に

二〇二三年二月一日のメール
芝さんへ 昨日は電話ありがとうございました。原稿の件は、正直現在の健康状態では自信がありません。まだ、今後の治療方針も定まっていませんので、心が揺れ動いている状態なのです。
三日に家族と共に千葉に帰ります。 早坂義郎

二月二六日 亡くなったちょうどその日
わたしはメールを送っていた
その後いかがですか。こちらは名護共同センターニュースがなくなったので大痛手です。県民広場で昨日は辺野古国会請願署名のキックオフ集会、今日は「島々を戦場にするな、沖縄を平和発信の場に緊急集会」で、デモもありましたが早坂さんがいらっしゃらないので寂しい限りです。今日のメールは近所の民商会員の方のことです。肺ガンがステージ4で余命数か月といわれたそうですが、わたしが行ったとき、その日の検査でとても小さくなったと喜ばれガンはなおるから教えたいとおっしゃり、フコイダンを毎日とる、食事は沢山食べる、新薬は…

もっと話したかった 後悔のなか
ひとつだけ伝えてよかったこと
いつかの集会の帰り日頃思っていたことをいった
「尊敬していますから」
不審な顔で
「だれが だれを?」ときいた
「わたしが 早坂さんを」といった
表情はおぼえていない
だまってあるいていった
あのとききっと
パレット久茂地の舗道が
イワシ雲に変わっていった

 

 

 

 

●編集手帳

☆沖縄戦最後の地、南部の糸数アブラチガマ(陸軍病院壕)を、懐中電灯を手に案内してもらったことがある。多くの兵士、ひめゆり学徒隊、住民がここで亡くなった。深い闇をくぐり抜けて地上へ出ると、眩い光が繁茂する植物を輝かせていた。けれど服はじっとり湿り気を帯びていて、一瞬、死者の吐息に包まれていたのではないかと思った。
☆いま、辺野古新基地のみならず、先島諸島(与那国、石垣、宮古)でミサイル基地が作られています。沖縄全体を再び戦争の最前線にする国策で、この暴挙を断固食い止めなければなりません。
☆特集は地域編集委員の芝憲子さんを中心に、沖縄詩人会議の方々に担当していただきました。ここから沖縄の怒りと平和への祈りが強く木霊してきます。詩とエッセイを寄稿いただいた会外の皆さまにも心よりお礼申し上げます。
☆第51回壺井繁治賞は北村真詩集『朝の耳』に決定しました。世界のひずみに真っ直ぐ向き合う理知、そこに抒情が溶け合った胸を打つ詩集です。(柴田三吉)

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