2022年3月号 自由のひろば(選)
●自由のひろば
夢の中の子供 壱貫亨治
暮らしを紡いでいた
坂道ばかりの街
嫌いだ嫌いだと
日毎夜毎に言っていた
そんな月日も
それなりの思い出として
過ぎるだけ過ぎ
穏やかな水平線の彼方
夢を見れば
未だに皆子供の姿だから
不思議だ不思議だと
家族の写真を眺めていた
いつかの僕みたいに
迷子になって泣きながら
嫌いだ嫌いだと
誰も彼もに言っていた
あの街へ
君は
帰ろうとして
坂道の途中
選評=都月次郎
壱貫さんの作品はいつもリズミカルで、それが根っこのような気がする。こんな思いでは誰にもあるので、すっと入ってくるだろう。終連の四行はそれだけで見事に完結していて、言葉の後ろの世界まで描き出して見せてくれた。
選評=おおむらたかじ
一連、坂道ばかりの自分の街を嫌いだと言っていたという子供の頃のこと。時を過ぎ夢を見れば、未だ子供の姿だから不思議だと家族の写真を見る。終連、みんな嫌いだと言っていた「あの街へ/君は/帰ろうとして/坂道の途中」。この坂道の途中がいいですね。
選評=草野信子
あまり多くを語らないこと、形式を整えて書くことで、濁りのない詩となっています。結果、読む人に手渡されるのは、イメージとしての街です。おそらく、作者にとっても、かつて暮らした街は、どこか、具体の手触りのないものなのでしょう。けれども、何もかもが嫌いだったその街へ、帰ろうとしている。自分を「君」と相対化して書いた最終連の現実感が、一編の詩を引き締めています。