2022年2月号 自由のひろば(選)

2022年2月号 自由のひろば(選)

●自由のひろば

エキストラ  木崎善夫

聞こえても聞こえなくてもいい台詞が
また 路上に落ちていく
風に舞い上がることもないまま
落ち葉といっしょに集められる

これは一種の群像劇だから
声高に叫ぶ台詞も 過剰な演技も
歴史的思想的背景も必要ないと
演出家的存在から言われ続ける

台本は いちにち一日その日の分だけ
内容は昨日のコピー&ペースト
それでも演じ続けるしかない……
アドリブは許されない……

今もカメラは回り続ける
どのエリアにもカメラはある
無自覚な密告者はスマホを持っている
フレームアウトはできないシステム

神殿に腐ったトマトを投げつける役を
もしも演じることになったら
犯行から逃走 逮捕まで撮られ続ける
フレームアウトはできないシステム

今 私が演じているのは
管理番号3735963の小市民役
聞こえても聞こえなくてもいい台詞が
また 路上に落ちていく


●選評

選評=草野信子
「エキストラ」とは「映画などの臨時雇いの端役」と辞書にあります。通行人や群集などを演じることが多い。そのエキストラを比喩として、現代の人々の姿、有り様を描いています。比喩と比喩されるものとの間に距離がなく、一枚の紙の表裏のように表現されていることで、本作は、詩の抽象性と同時に、伝達力をもった作品となっています。最終連で「私」は、小市民役を演じている、と自嘲的に語っていますが、現実を見つめる目に、思考の確かさを感じます。

選評=都月次郎
私たちの日常を舞台に乗せて、くっきりと見せてくれた。チャップリンの痛烈な風刺映画を見ているような、そんな気にさせてくれる。管理され監視され番号で呼ばれる。これは夢物語ではない、現実なんだということが恐ろしい。「聞こえても聞こえなくてもいい台詞が/また 路上に落ちていく」と言う言葉が効果的に沁みてくる。

選評=おおむらたかじ
エキストラとは、その哀しみとはかなさ。おもしろい。台詞が路上に落ちていくという。そして「落ち葉といっしょに集められる」。アドリブも許されず、フレームアウトはできない。二連も「声高に叫ぶ台詞も…必要ないと言われ続ける」と痛烈ですね。
終連、管理番号はミナサンゴクロウサンですか。タイトルを思う。ナルホドです。

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