2022年11月号 特集 いまこそ、憲法――大阪と近隣からの発信

2022年11月号 特集 いまこそ、憲法――大阪と近隣からの発信

特集 いまこそ、憲法――大阪と近隣からの発信

TAMAKO 憲法とともに
幻彩 戦争、そして憲法九条
北村朋子 戦争が残したもの
上野崇之 侵略戦争と植民地と憲法の話をしよう
たなかすみえ 嬌声の売国奴
前田千代子 戦争放棄
瀬野とし その日
熊井三郎 大阪のおっさんの唄
三浦千賀子 バトンタッチ
榊次郎 憲法を友として
南地心爽 憲法九条は日本の光、世界の希望
木村勝美 憲法を今こそ
阪南太郎 日本国憲法さんへ
坂杜宇 カイケン鳥
幽間無夢 大崎事件、四三年目にして再審ならず
田島廣子 どん底
斉藤明典 ノート・憲法
戸田和樹 青い空(憲法)
畑中暁来雄 大国願望
奥村和子 ああマスク・ワクチン
吉田定一 いまこそ憲法
遠野辺墨 今 大切なこと
藤の樹々 憲法九条(十五文字句)
藤谷恵一郎 パクス 24

エッセイ
日本国憲法があったなら…  吉田千秋
もしも 日本国憲法の日本だったら  原圭治
憲法に生きる先人、守られている私たち  ケイ・シュガー
今、改めて鶴彬  岩佐ダン吉
虐げられる憲法九条  高桑次郎
「戦争はいやだ」を思い続けて70年  溝川悠介
生態学・人権・憲法の三種の神器  寮美千子

報告
原水禁世界大会・広島 田中茂二郎
平和のつどい アルバム
平和のつどい報告 中村明美
平和のつどい参加者の感想 岡田忠昭 府川清 宮本阿伎 疋田憲雄
「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」全国へのメッセージ
ひめゆり平和祈念資料館が第11回沖縄平和賞を受賞! 前泊克美

一般詩作品
呉屋比呂志 草と風
御供文範 畳上げ
田中茂二郎 小児病棟(2)
浦西登 樹
河合恒生 蝉の死
斗沢テルオ 2022初秋・虫の声
高細玄一 原っぱ その理想と強制
おおむらたかじ ツルウメモドキ
秋野かよ子 小さなお話
いいむらすず 二枚の紙
妹背たかし やっちゃんの鈴
永山絹枝 コロナ対策 放任でいいのですか
小田凉子 道
床嶋まちこ 今こそ憲法
梅津弘子 シール投票 訂正版
伊藤眞司 金太郎飴
滝本正雄 「平和」とは…
菅原健三郎 母の暮らしと憲法

書評 宇宿一成 青木みつお詩集『アルプス便り』
笠原仙一詩集『愛の夢』
北島理恵子詩集『分水』
佐々木洋一 妹背たかし詩集『春雨』
前田新詩集『詩人の仕事』

ひうちいし
河合恒生/河合政信/松尾節子/おおば游歩/青井耿子

大西はな小詩集
装う/クラスメート/「だんだん」に/言葉の舟/頂/縄/報道に

地下室の窓
忘れられてゆく、ミャンマーも香港も――陳腐化の暴力  徐京植

詩作案内 わたしの好きな詩 石川奈実  古久保和美

詩作入門 見ること、気づくこと  芝原靖

私の推す一篇 2022年10月号

現代詩時評 世界が終わるその前に 立原直人
詩  集  評 感性が先導する世界 魚津かずこ
詩  誌  評 切れ味のある表現・奥深さのある表現 後藤光治
グループ詩誌評 いずれも 春を連想させてくれる 河合政信

自由のひろば (選・草野信子/都月次郎/おおむらたかじ)
村口宜史/有原悠二/木崎善夫/和田平司/加澄ひろし/弓貴大
/小林信次/三村あきら/大野美波

寄贈詩誌・詩書
詩人会議通信
読者会報告 10月号 芝原靖
●表紙/扉カット/表紙のことば 宮本能成
編集手帳


●特集詩作品

大阪のおっさんの唄――好っきやねん
熊井三郎

好っきやねん好っきやねん しょうがないやんけ
好きや好きや好きや好きや好っきやもん
憲法第九条 好っきやね~ん

〈わしら日本国民は 世界の平和を願うて
こんりんざい戦争はせん 武力も使わん
そう決めたんや

一発のミサイルよりも 一輪の菜の花
一隻の軍艦よりも 一杯のけつねうどん

〈そやから陸海空軍なんか持たへん
政府にドンパチやる権限与えてたまるかい
そう決めたんや

戦争でおだぶつなんて したないわい
殺すのなんて まっぴらじゃ

〈わしの親父もそのまた親父も
戦争ではえらい目におうてきた
明治このかた日本は戦争ばっかりやってきたからな
周りの国にもぎょうさん迷惑かけてきた
憲法第九条は日本の宝 大事に守りそだてなあかん
見てみ 今も世界のあっちゃこっちゃ
爆弾の下で手足もがれたり
飢えに泣いてる子がぎょうさん おる
九条を世界の宝にするんや
平和外交 死にものぐるいでやらんかい
そやのに なんやて この九条変えて
またドンパチやらかそうってか

好っきやねん好っきやねん しょうがないやんけ
好きや好きや好きや好きや好っきやもん
憲法第九条 変えたらあか~ん
*演歌、ミス花子「好きやねん」


憲法を友として
榊次郎

廃墟の中から父や母は再出発しました
もう二度と戦争はごめんだと溜息をつきながら
母は着物を預けては出し質屋通いを繰り返していた
父は戦場で何をしたのか 何を見たのか
その死まで語ることはなかった
人に言うに言えないことを体験したのだろう

多くの犠牲者の慰霊もそこそこにして
この国は慌ただしく出直したのです

敗戦後の昭和二二年 私は生まれました
その同じ年に新しい憲法もできて
戦争はしないと誓いあったのですが
あの日からも世界中で何度も戦争が
今もどこかの国の街が燃えている

一人の男が凶弾で倒れました
その男の願望を叶えようと声高に叫ぶ者たちが
またぞろ 妖怪のように現れて来た
国を守るため 防衛力を高めよう
核を共有しよう
死んだ男の意思を継いで
ルールを変えると

戦後史で僕らは学んだのです
戦争に熱狂した日本人やドイツ人の末路を
自衛と攻撃はコインの裏表だと
だから簡単にルールを変えてはならないと
九条だけで日本を守れるわけではないけれど
権力者の暴走を止めるルールであることを
忘れてはならないのです

憲法と兄弟のように生きてきたぼくは
近頃 背筋が寒くなっていくのを感じています
戦後からずーっと続いている闇の世界から
この国を動かす不気味な歯車の軋む音が
今夜も聴こえて来るような気がするのです


その日
瀬野とし

〈お祭り広場のマグロを思い出すね〉
〈刀のような包丁で見事にさばいていた〉
食べられないマグロが埋められた日々もあったと
ちらりとよぎる
〈いよいよ 解体ね〉

広場に急ぐひとびと
今から 全世界に向けて放映されるのだけど
家にじっとしていられない
大画面で一緒にその瞬間を見ようと 集まって来る
〈初めはカボチャみたいだったのね
解体って怖くない?〉
〈大丈夫 最後の一つだもの 慣れているわよ〉
ひとびとが集まって来る
〈わたし ウィーン宣言の終りのところ 何度も何 度も読んで そらで言えるわ〉

お年寄り 若いひと 子どもを連れた父母…
日に焼けた男のひとたちは 漁船員だろうか
集まって来る 集まって来る
生きているひとも 亡くなったひとも

全世界のあちこちに
今こんな広場があるだろう
押し寄せる 生きているひとも 亡くなったひとも
手をつなぎ合っている 肩を抱き合っている
〈ほんとうに ほんとうにその日が来たのですね〉
わたしの隣は 全身が黒く焦げたひとだ
黒く焦げた眼に 涙が浮かび
黒く焦げた唇に 笑みが浮かんでいる

*2022年6月21~23日 第一回核兵器禁止条約締約国会議 ウィーン宣言「……私たちは、最後の国が条約に参加し、最後の核弾頭が解体・破壊され、地球上から核兵器が完全に廃絶されるまで休むことはないだろう」


●前文と9条

日本国憲法(前文)
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

第九条【戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認】
① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


●編集手帳

☆この春、新編集部が発足した際、地域の編集委員を募りました。本誌を作る喜びを全国の会員と共にしていきたいという考えからです。その一回目として大阪の編集委員・瀬野としさん、奈良在住編集部員・熊井三郎さん、大阪詩人会議代表・榊次郎さんを中心に、特集「いまこそ、憲法」をまとめていただきました。会員の他、会外の方々へも作品とエッセイを依頼していただき、幅広く充実した内容となりました。ありがとうございます。執筆を快く引き受けていただいた皆さまに心よりお礼申し上げます。
☆現憲法は国際情勢の中では無力だという現実主義が跋扈していますが、それは危機の解消をもたらさず、事態をさらに悪い方向に導く考え方です。保守勢力の改憲案は、戦争をできる国にすることだけでなく、人権を著しく制限するものです。理念・理想・夢のない社会は羅針盤や舵のない船と一緒でしょう。私たちの憲法は理念と理想、夢を持ち、平和への道をつくるもの、世界に広げていくべきものです。(柴田三吉)

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