2022年10月号 自由のひろば

2022年10月号 自由のひろば

●自由のひろば

夜明け  加澄ひろし

一瞬の出来事であった
黄金色の光のひろがりが
たまらぬ眩しさを放ち
空のすべてを覆いつくした
なにもかも、かがやきわたり
空気は赤く染まっている
地平のかなたから
明々と燃える太陽が
音もなく、のぼろうとする
その放射は
瞳を刺し、頭を貫いてゆく

強烈な光のまぶしさよ
眠気を祓いたまえ
邪気を祓いたまえ

真一文字の光の先に
すべて、かがやきわたり
金と銀の無数の反射が
寝覚めの瞳を見開かせる
樹々は黒々と繁茂を揺らして
はじまりの合図を告げる
押し寄せてくる
やるせない熱を浴びて
頭蓋のよどみが沸騰する
飴色の風が吹いていく
飛びたつ鳥のはばたきを見て
白みはじめた思案の潮が
波立ち、渦を巻く

雲を散らすほとばしりよ
精気を放ちたまえ
霊気を放ちたまえ

わたしは
その瞬間の
目撃者であった


●選評

おおむらたかじ
それは夜明けの風景。「黄金色のひかりが/たまらぬ眩しさを放ち/空のすべてを覆いつくした」と描写します。
のぼる太陽に、眠気と邪気を祓いたまえと祈り、さらに願う。光のほとばしりに「精気を放ちたまえ/霊気を放ちたまえ」
告げくる始まりの合図、「その瞬間の/目撃者であった」というわたし。夜明けなのです。すきのない描写です。

草野信子
太陽がのぼろうとするときの、光のひろがり。光の放射。「その瞬間の/目撃者であった」ひとだけに可能な、同時に、それを言葉に置き換える力を持ったひとだけに可能な描写です。ここには、「一瞬の出来事」が、独自の表現で描写されています。〈講談師の語り〉と言うと、いささか違和はありますが、本作の魅力を、そうなぞらえたいと思います。ぐいぐい引き込まれました。

都月次郎
夜明けの瞬間を描いた美しい風景画のようで清々しい。山の上からの眺望かと思ったがそうでもないらしい。目覚めてすぐの時間が流れているので、作者の日常の朝だろう。こんな朝に目覚める人はうらやましい。そうして何よりもこんな感動で始まる一日はきっと素晴らしいはずだ。

コメントは受け付けていません。