自由のひろば 2024-11

自由のひろば 2024-11

2024年11月号

夏休み  倉橋謙介

八月のお盆過ぎ
久しぶりに所沢の友人を訪ねる
駅まで迎えに来てくれた車を降りて
玄関へ向かう前
同乗していた五歳の娘さんに
庭先にあるカエルのお墓を
踏まないように注意を受ける
指差す先にはアイスの棒が
小さな山に刺さっていた
踏んだらね
カエルさん
もう一度死んじゃうんだよ
真剣な顔でその子は言う
僕は思わずうなずいて
墓前で大事なお友達の為に
お祈りをしてから
家に入った


●選評

選評=坂田トヨ子
5歳の子どもの言葉と表情に感動して思わずカエルの墓前でお祈りする作者。二人の交流の優しさに心が温かくなります。「カエルさんもう一度死んじゃうんだよ」という言葉に、人間が何度も殺されるような現実を想いました。お父さんかお母さんの言葉が娘さんの心に響いていたのでしょうか。命の尊厳を考えさせる優しい詩ですね。

 

選評=中村明美
心が洗われるような詩だ。夏のある日の、小さな物語。詩は日常の暮らしの中で、掬われるのを待っている。優しく、心豊かに感性を張り巡らせば、詩はこのように、生きる者の足元に佇む。紛争と分断の世界へ、この死を悼む尊い心が、どうか届きますように。

 

選評=南浜伊作
友人の五歳の娘さんに庭先のカエルのお墓を踏まないでと注意され、命について考えさせられる。童女の素朴で純真な思いの訴えを聞き、感激したのですね。小さなお墓を踏んだら「もう一度死んじゃうんだよ」という訴え。死ぬことへの恐れが既にめばえている。その注意に従って、お祈りをしてから玄関に入ったというのがいいですね。あまりに粗末にされる人命が多い世界にあって心洗われる作品です。

コメントは受け付けていません。