自由のひろば 選(2022.1)
帰り道 村口宜史
青空を背にした
大きい、大きい水たまり
空を渡るように
長ぐつの少年がゆく
放課後の
あんなに長かった
帰り道
すべてが、鮮やかな夏
青空を背にして
銀色の機体が
はっきりと見えた
遠い国の惨劇に
満たされた
器、いっぱいの
水が溢れる
あんなに長かった
帰り道
指鉄砲の照準を
合わすと
狂ったように
どこかで、犬が吠えはじめた
●選評
選評=おおむらたかじ
昨晩も今朝も雨だったのか、放課後の帰り道はすっかり晴れて青空を背にしている。その大きな水たまりと長い帰り道。長ぐつの少年が見える。この長ぐつがいい。銀色の飛行機、どこか遠い国の惨劇を思う。そして水が溢れて…。犬が吠えはじめた。
ふと自分に返る。「長かった帰り道」。単純なようですが、すっきりとまとまった佳品と思います。
選評=草野信子
夏の雨あがり。水たまりを行く長ぐつの少年。鮮やかなイメージが喚起されます。村口さんの少年時代。学校からの帰り道が長かったのは、幼いながらに抱いている屈託があったからでしょう。「銀色の機体」を「遠い国の惨劇」と結びつけることのできた少年です。それを憎んで、機体に「指鉄砲」の照準を合わせたしぐさが目に浮かびます。少年の正義感が好ましい。犬の吠え声が時代の不安を感じさせます。
選評=都月次郎
水たまりに映った世界は、現実のようでいて、少しねじれているのかもしれない。美しい絵のようだ。この詩は何も言っていないようだが、水たまりの空は多くを語っている。犬はいつまで吠え続けるのだろうか。