第42回(2008) 詩部門入選 鮮一孝
詩部門入選 鮮一孝 「竹の声を聴く」
1957年12月新潟県柏崎市生まれ。上越市に在住。会社員。新潟県現代詩人会会員。
上越「詩を読む会」事務局長。詩誌「詩彩」同人。
2007年「詩のフェスタひょうご」、兵庫県議会議長賞他。
受賞のことば
私が詩を書き始めたのが18歳の頃。つたない詩を書き、誰からもバカにされ、とぼけた夢ばかり見やがってと、周囲の眼は意外にも冷たく、どもりのお前にはそれしか能がないのかと笑われ、誰からも相手にされなかった。
だが、それにもめげず、ひたすら隠れて書き、書き溜めたノートは30冊を超え、書いたものは色々な雑誌、新聞に投稿しましたが、一度も入選することなく、詩として認められたのがそれから三年後、某地方新聞の読者文芸欄だった。
小さく名前が掲載されていた。選外佳作だった。初めて詩人の仲間に入れたと思いました。選者は法大教授「山本太郎」氏。
今、「私生活の途切れた一行、一行」が詩になり、天空に羽ばたこうとしている。
竹の声を聴く 鮮 一孝
竹林から切り出されて一カ月が経つ
軒平瓦に立てかけられて
さして干からびたようすもなく
引き締まった苛立ちに独りうなずく爺
その数 千本はあろうか
晩秋には籬の一部に生まれ変わる
ならないものは箒になり
廂の間に吊され人の目に触れなじむ
そんな事どうでもいい事ではないか
箒になろうと 籬になろうと
そんな顔をして見過ごす爺
差し替えは二日かかる
籬の支柱か 箒か
乾いた竹の口から聴こえるざわめき
それぞれ切り出されてから
反り返る手前の竹の声
吹きつける風に混じり
またしても空耳だったのか
爺には聴こえ 僕には聴こえてこない
艶かしい真竹の青臭さが残る
晩秋から初冬にかけて門の近くで遊ぶ
暖かな冬だまり 平穏な日常
誰一人として
風の声を聞くことなく
乳母車を引く老婆に混じって過ごす
区分けされ 運命が二分された朝
独り言にも思える爺の掛け声が
軒樋から流れて地中に沁み込むように
突き刺す勢いが真竹に伝わる
廂の淡い翳の下に横たわる
身の丈二十五尺もあろうか
役目を終えた籬の一部が
引き抜かれ 裂けて朽ちた所から聴こえる声
天の声から人の声まで
様々な声を吸収した竹
軒下に蓄えられ 囲炉裏で燃やされる
火力はたいした事はないが
風雪に耐えた分 よく燃える
その燃えている傍らから聴こえる声
狭められた晩秋の空に吸い込まれ
冬将軍まで届くのか
燃えてはじける音
爺は黙って竹をくべる
空耳ではない 竹がはじける声
灰の中に染み渡る