2025年11月号 特集 いのち・作物を育てる

2025年11月号 特集 いのち・作物を育てる

●もくじ

特集 いのち・作物を育てる

妹背たかし オシロイバナ
野口やよい 実り
坂田トヨ子 セイタカアワダチソウが
田辺修 命の満洲 一九三四
小林信次 蜜柑
伊藤眞司 野菜を採る幸せ
小田凉子 畑の師匠
佐藤誠二 田ノ神さぁ
尾田貢 天草
三村あきら ドクダミの根
城田博己 畑仕事
平由美子 命
秋乃夕陽 無花果
梅津弘子 夫のゴーヤ栽培
松村惠子 母のトマト
八田和代 まわりの景色
いいむらすず ねがいごと
いわじろう そう 見える
高嶋英夫 雨にも負けそうな
穂積一平 坐っているところ

特集エッセイ
永瀬清子の日常生活と詩――ああ私は不思議なことをした  みもとけいこ
「おれたちは農民である」――宮沢賢治と農  照井良平
命のバトン  櫻井美鈴
危険な暑さ! 胡瓜が枯れた  狭間孝

エッセイ
文学の風景・金時鐘 『猪飼野詩集』  西山正一郎

一般詩作品
坂田敬子 誕生日
水衣糸 長野空襲を語り継ぐ
呉屋比呂志 イズミのおっちゃん
わたなべとしえ お願い聞いてよね
永山絹枝 異次元の迷い子
斗沢テルオ 未だ何者にもなれない僕
原圭治 老いた夢は
いだ・むつつぎ 私はその時分かった 墓地も詩である
池島洋 いのち
清水マサ 息子 誕生
榊次郎 終活より老活を
浦西登 樹の5行詩
床嶋まちこ 生きていることを愛おしむ
水崎野里子 八月の光

 

書評
河合政信 檀允心実詩集『黄身とミルク』
佐々木洋一 遠藤智与子詩画集『猫と花火とストーマ』
都月次郎 髙橋宗司詩集『吉良さんの八月』

新会員作品 おくむらじゅん

ひうちいし 網谷厚子 竹内順子 洲史 佐藤一秋 玉川侑香 上手宰

橋本俊幸小詩集  淀む/秋の蚊/瞳が/石の声

エミリ・ディキンスンの詩を読む⑩ ディキンスンの手紙  魚津かずこ

詩作案内 わたしの好きな詩 まど・みちお  塚田英子

私の推す一篇

詩作入門 見えないものを見る  北沢秋恵

現代詩時評 バトンをつなぐ 芝原靖
詩  集  評 日常の言葉と詩の中の言葉 山野次朗
詩  誌  評 リズムと余白で沁みる詩を! 照井良平
グループ詩誌評 同じ時間軸の中で生きる 青木春菜

 

自由のひろば (選・渋谷卓男/中村明美/横山ゆみ)
三明十種/佐々木信子/佐藤一秋/金野清人/藍眞澄/
橋本敦士/有原野分/大木武則/大野美波/天王谷一

新基地建設反対名護共同センターニュース
詩人会議通信
●表紙/扉カット/表紙のことば 中島和弘
編集手帳

・・・・・・・・・・・・・・・・・

●詩作品

オシロイバナ 妹背たかし

オシロイバナの家族が目覚め
折からの夕風に
ゆらゆらと 顔を洗っている
黄色いワイシャツに身を包んだのが
お父さん
真っ赤なドレス姿はお母さん
子どもたちは
赤いライン入りの黄色のティーシャツ
それぞれに
育てられたのではない 育ったのだと
たおやかに凛として

朝になった
当たり前の昨日が
当たり前の今日に続く心の安らぎで
うつらうつら
だが 地球では
当たり前でない世界が宇宙を揺さぶる
育てられた弱弱しさが
自立できない慄きとなって
ミサイルの発射ボタンに手をかける

自分の力で 迷いなく育った
貴方たちは
揺れ動く世界を鎮めるため
ありったけの力で花を咲かすのよ
オシロイバナの母親は
地球の当たり前を守るため
すでに 今日の夕暮れを睨み
言い聞かせている

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●編集手帳

☆「いのち・作物を育てる」。これは人の営みのなかで最も基本的なもの、生きる喜びの源です。どれほど技術が進歩しても、自然を相手にするかぎりそれは変わりません。近年急速に進む温暖化による災害はそうした喜びを人びとから奪っています。今年の米騒動はその象徴でしょう。世界が手をこまねいている間に危機は一層深まっていきます。
☆永瀬清子は窮乏生活のなか、田畑を守り育てる喜びを手放しませんでした。みもとけいこさんは永瀬の、「〈ああ 私は不思議なことをした〉と自分の果実に自分で驚嘆するほどに」に、詩人が辿り着いた境地を見つめます。
☆宮沢賢治は新しい農村を作る夢を抱いて農民たちと「羅須地人協会」を設立、農業技術と文化の種を蒔きました。その途上で倒れた賢治の思いは「雲からも風からも/透明な力が/そのこどもに/うつれ」に表れていると照井良平さん。
☆宮沢賢治も永瀬清子も詩の根底にはいのちを育む豊かな思想があり、いまも私たちを励まし続けます。(柴田三吉)

 

コメントは受け付けていません。