2020年9月号 特集 病い
●目次
特集 病い
草倉哲夫 山椒魚 4 小田切敬子 つゆごもりに はなしこむ 5
いいむらすず 真夜中の手 6 坂田トヨ子 噛みしめる 7 伊藤眞司 PTSD 8
いわじろう 共存 9 加藤幹二朗 正直な痛み 10 宮本勝夫 終活の生業 11
佐藤誠二 呪文 12 上野崇之 西へ向かう車の中で 13 佐伯徹夫 消毒魔 14
彼末れい子 かかったのかも? 15 たなかすみえ 胃袋をつかむのは 16
滝本正雄 戦前回帰症候群 17 白永一平 貧乏ないのち 18
榊次郎 道頓堀の灯りが消える頃 19 浜本はつえ 病室を見舞う 20
石関みち子 優しい言葉を 21 織田英華 戻って来なかったとき 22
田島廣子 コロナと戦う 23 あさぎとち 静かな歩幅 30 中川桧 銀の窓 31
松田研之 それは 32 水衣糸 五郎叔父さん 33 神流里子 ここまでおいで 34
赤木比佐江 朝から夕まで 35 小田凉子 びんずるさん 36 菅原健三郎 母の神様 37
鈴木太郎 俺の意地 38 白根厚子 歩を進める 39 妹背たかし 雲雀が鳴いた日 40
あべふみこ 父のこと 41 春山房子 半盲 42 池澤眞一 入院 43
杉本一男 あぶない 44 なかむらみつこ みなさん「ありがとう」 45
勝嶋啓太 人間は病いの一つぐらい持っていた方がいい 46 大嶋和子 癌という贈り物 47
エッセイ
〈認知症〉 白石小瓶 24
重症新型コロナ感染を疑われる 大島朋光 26
障害者として まえだ豊 28
病と暮らす 坂杜宇 48
人生は最後まで自分らしく 狭間孝 50
パンデミックを経て 宇宿一成 52
評論 感染症と詩・文学――戦争と平和も含めて 三浦健治 64
エッセイ 遠地輝武生原稿落手のいきさつ 佐藤文夫 57
詩 遠地輝武 りょうらんのいのちおわり 58
ネット・リレー
私の好きな詩の再読 72
あらきひかる 河合政信 清野裕子 高田真 長谷川縁
嘲流 斗沢テルオ 丁寧な説明を丁寧に説明 102
私の推す一篇 2020年8月号 103
ひうちいし 板倉弘美/青木みつお/青井崇浩 104
北村真小詩集 洞窟/夢穴/水族/落葉/ひかり/木との対話 84
四季連載 詩の見える風景・ふたたび秋――「詩人会議」誕生のころ 杉谷昭人 88
詩作案内 わたしの好きな詩 萱野笛子 鈴木義夫 90
詩作入門 九、詩の産まれるまで 有馬敲 92
現代詩時評 女性性に聞く 柴田三吉 94
詩 集 評 心に新たな模様を 魚津かずこ 96
詩 誌 評 目から零れる雨 宇宿一成 98
グループ詩誌評 コロナの脅威をどう克服するか。 宍戸ひろゆき 100
自由のひろば 選・都月次郎/草野信子/佐々木洋一 106
青木まや/佐藤一恵/汐見由比/清水将一/有原悠二/木崎善夫/耳成保一/天王谷一
新基地建設反対名護共同センターニュース 119 詩人会議通信 115
●表紙(「2011年」)/扉カット 鄭周河 表紙写真あれこれ 柳裕子 120 編集手帳 120
●詩作品
山椒魚 草倉哲夫
半開きのドアの向うに
若い夫婦と幼子を見た
午後の陽を浴びて
ふくませた乳房が光っていた
おどける夫
おだやかな光景だった
夕方 小さな浴室で
青年といっしょになった
悪性のガンですでに髪はなかったが
まだつややかな肌をしていた
病棟の灯がおち家族が去ると
患者は人気のないロビーに集まる
孤独の長い時間をまぎらわすために
生きていることを暗い笑いで確かめる
ロビーからもどりまぶたを閉じた
むかし好きだった本が思い出された
岩屋に閉じこめられた
『山椒魚』の孤独を愛したことが
にがにがしかった
求めずとも
幼子も青年も私も
すでに岩屋の中だった
●編集手帳
☆新型コロナウイルスの感染が止まりません。けれど鮮明にみえてきたものがあります。国民の命よりも〝私利私欲〟を優先する政権の姿です。その施策は情報公開しない闇から生まれ、全体を強調し、個を従わせようとしています。
特集の作品は、それぞれの病いについて述べたものです。それは命とはなにか、という作者自身への問いであり、個の生きかたをたしかめているのです。
☆遠地輝武(一九〇一~一九六七年)の詩「りょうらんのいのちおわり」は、未発表(57頁参照)の作品です。夫人の木村好子(詩人、一九五九年一〇月没)への愛の詩ですが、遠地が一九六七年三月に刊行した詩集『千光前25番地』には入っていません。若しかしたら、亡くなる直前に書かれたのかもしれません。いずれにしても貴重な作品です。
☆ネット・リレー「私の好きな詩の再読」は、武蔵野詩人会議にお願いした合評座談会です。コロナ禍のために苦心された新しい形式です。今後の発展があるかもしれません。厚いお礼を!(秋村宏)