第45回(2011) 詩部門入選 末永 逸

第45回(2011) 詩部門入選 末永 逸

詩部門入選 末永 逸

1962年、鹿児島市生まれ。1991年、ゆきのまち幻想文学賞大賞受賞。男の子二人の母。
洋楽が好きです。


受賞のことば

受賞のお知らせを頂いた時はとても嬉しく、朝、車を運転しながら、この世界にはこんなにたくさん光があったっけ、こんなにたくさん色彩があったっけと感じていました。自分にはまだまだ詩が書けるという自信と希望でハイになっていました。おりしも母が倒れて硬膜下出血の手術を受け、この詩を書いた時期と同じような状況が再び起こっていました。手術自体は成功で、またこちら側の世界に帰ってくると信じていましたが、その後、酸素マスクの向こう側、人工呼吸器の向こう側と遠ざかり、一週間後に他界しました。今回の受賞は母の最後の贈り物だったのかもしれません。そして、この詩で提起した私の葛藤に対し、心配しなくてもあなたを大事に思っていたんだよというメッセージだったのかもしれません。


とおいまひる   末永 逸

慢性腎不全です
うわごとを言っています
そばについていてください
看護士に命じられたとおり
処置室のベッド脇のパイプ椅子に
私はじっと動かずにいて
脳に毒素のまわった母の
錯乱の中に住まう

いってらっしゃい と母が
どこへも行かない私を送り出す
いってきます と その場にとどまる
私はお相撲をとりに行ったのよ
そうなの 疲れたね ゆっくり休んで

遊園地で迷子になったの
子供が迷子になったの
上の子と一緒に
おとぎ列車に乗ってる間に

はい その迷子は私です

母の夢の中で
五歳の子供になって
早くみつからなければ

あせっても
夢の入り口が
みつけられない

泣いたり 動き回ったりしたら
迷子と間違えられるから
そこで待っててと言ったのに
きっと 泣いたのね
恐くなって 私たちを探したのかも
世話のやける子
お兄ちゃんは いい子なのに

お兄ちゃんみたいにいい子じゃないけど
私も お母さんの子供にして
お兄ちゃんみたいに勉強できないけど
私も お母さんの子供になりたいよ

時間がソーダの泡のように
少しずつ 空に溶ける
おとぎ列車のレールが
鈍い銀色の熱線を放つ

どうしよう
あの子がどこかで泣いてる
本当はやさしい子なの
私が足の小指を怪我したら
あの子は言ったの
痛くない指と替えてあげるって
あの子をおいていかなければよかった

ワタシハ ココダヨ
ワタシハ ココダヨ

記憶の中 春の終わり
風のない とおい まひる

夢の入り口が
みつけられない

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