2019年 自由のひろば 最優秀作品選評

2019年 自由のひろば 最優秀作品選評

選評

佐々木洋一
詩は様々なものがあっていい。そして、自由で美しく。単純にそんなことを考えながら、1年間この欄を担当させていただきました。
最優秀賞の岡村直子「おひとりさま」は、言葉とか、論理とかにあまり深刻にならず、外へと心持ちを解放させていく、そんな伸び伸びとした感覚がありました。孤から地球にまで拡がっていくおおらかなありようは、スケールの大きな作品として記憶に残りました。
優秀賞のむらやませつこ「わたしという存在」は、地球の隅っこで息を殺しながら生きている人間という小さな存在。自由に羽ばたこうとしても羽ばたけない、そんな息苦しさが鬱積している。「あーあ あごがはずれるまで笑いたい」の、率直な思いとも、やるせなさとも言える熱望が、しっかりと伝わってきました。
同じく優秀賞の北川ただひと「研ぐ」からは、錆びついていく現実の姿が、研ぐといった行為を通して新しいものへと変わっていく、そんな強い思いが感じられました。「詭弁」や「階段」では、作者の心の綾といったものが巧妙に仕組まれていました。
岩崎明さんは、年間を通して七篇と掲載数が最も多く、実力のある書き手。「死なない程度」「七福神」など技術的にも素晴らしい。作品に前向きな迫力が出てくるとより共感が得られるのではないかと思いました。
三ツ谷直子さんは、詩のモチーフや捉え方が独特で新鮮。「さがる」「お弁当」など好きな作品が多くありました。もう少し構成を吟味するとなおよかったのではないでしょうか。

 

柴田三吉
一年間の作品を読み返すと、毎号すぐれた作品が掲載されていることが分かります。投稿される方々の熱意を感じました。三編を選ぶのは悩ましいことでしたが、それだけに今年も素晴らしい結果になったと思います。
最優秀作品の岡村直子さん「おひとりさま」。一人であることを揶揄する意味に転化されてしまった言葉「おひとりさま」を逆手に取り、スケールの大きな世界を描きました。社会の風潮にまみれた言葉をひっくり返し、見事な「個」を描いています。五月号の「便器の唄」もよかったです。
優秀作品のむらやませつこさん「わたしという存在」。展開の意外性が詩の豊かさにつながっています。ゆるやかな導入からラストで辺野古の問題に辿り着くところは、虚を突かれると同時に強く胸に迫りました。一編のみの掲載でしたが、来年もさらなる飛躍を目指してください。
同じく優秀作品の「研ぐ」。北川ただひとさんは、批評性に満ちた作品を安定した力量で書いてきました。九月号から十一月号まで連続してトップに選ばれていますが、その中でも「研ぐ」は出色でした。観念を象徴的な場面に転化する力があります。
優秀作品の候補として、木崎よしおさん「改札」、サトウアツコさん「低反発インソール」、檀上桃子さん「片思い」も推したかった作品です。
ほかに、落合郁夫さん、岩崎明さん、村田多恵子さん、三ツ谷直子さん、春街七草さん、立会川二郎さん、いわじろうさんなどが、年間をとおして活躍されました。来年も新鮮な作品を期待しています。

 

みもとけいこ
岡村直子さんの「おひとりさま」は、/わたしを見下ろす月も太陽も富士山も/おひとりさまだ/と活写し、ともするとネガティブになりがちなこの言葉のイメージを見事に打ち砕いてみせました。他者の言葉で縛られた私たちは、他者の価値観に支配されたり傷つけられたりしがちですが、その紐を自らの気付きで解き放ち自立しなければなりません。それが言葉に関わる詩人の第一義だと私は思っています。岡村さんは五月号で「便器の唄」という作品も選ばれています。タブーをタブーとせず、どのようなテーマでも本質に切り込もうとする精神性と大らかさが素晴らしいとおもいました。
むらやまさんの作品は、わたしという存在がわたしによって肯定できない感覚が、日本のあらゆる年代に広がっている現状を感じさせました。スローモーションで呼吸をし小さく息を吐く、この国に存在していることにとても遠慮でもしているような自己肯定感の危うさ。それは海の底に息づいている珊瑚礁に上から土砂を投入するような国家の暴力性の問題でもあるし、個人の自立の問題でもある。私がむらやまさんに感じたのは岡村さんと同じ、女性の大らかな楽天性でした。作品の最後で、明るい未来を感じました。
北川ただひとさんは、昨年一年間主に介護をテーマとした佳作を多く発表されました。今年度はテーマも作風もがらりと変わり、その多様性表現方法の巧さは驚嘆するものがありました。ただ「研ぐ」もそうですが、最後の二行で作品を凋ませてしまっています。詩にとってもっとも大切な感動力の伝搬が損なわれてしまわないように。

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