自由のひろば選(2021.2)

自由のひろば選(2021.2)

●2月号 自由のひろば作品

そっぽ
岡村直子

いつのまに
まわりにひとがいなくなった
かくれんぼのように
わたしだけがのこった

だれもが
じぶんのことで
せいいっぱい
マスクがワールドを
支配するなんて
忍び寄る老人禍が
果てのすがたなんて

わが身さえもてあます
せまい部屋の
わずかの空間
自分にはそっぽを
むかれない

だれにもくる
朝がある
だれにもくる
季節がある
はげましてくれる
月や星がある

アキが
カサコソ舞ってきた
こ ん に ち は
落ち葉に
そう書いてあった
っけ

 

 

●2月号選評

選評=草野信子
コロナ禍のなかの私たち。確かに「じぶんのことで/せいいっぱい」です。
そんななかで「自分にはそっぽを/むかれない」のだ、ということも実感しています。本作は、それらのことを、改めて自覚させてくれます。メッセージのある詩ですが、簡潔な表現のなかに、言葉の確かな選択、語り口の工夫があって、無理のない共感を誘います。最終連に岡村さんの詩の魅力を感じました。落ち葉が五枚、なのですね。落ち葉なら「さようなら」と書いてあるもの、と評者は思ったので、妙にうれしくなりました。

選評=都月次郎
この作品の面白いところは、あまり書きすぎなかった点かもしれない。自分の思いを掌に乗せて、そっと差し出したように見える。それでいてこの思いは共有できる。今までの常識が非常識に替わってしまう時代。それでも言葉はどんなに近づいてもいい。落ち葉や自然が語りかけるたくさんの言葉、それを聞き取れる人間でありたい。

選評=おおむらたかじ
半ば強制されて、コロナ禍の中の外出自粛。そして老いの日々。それでも前を向いて生きる。「自分にはそっぽを/むかれない」から。柔らかくまとめました。一連の「わたしだけがのこった…」孤独なわたしだが、励ましてくれるものがある。思い直して、四連そして五連、季節が動いていく、地球は回る、のです。
いちいちコロナとでてこないが、それはよかったと思います。五連は、生き返った気持ち。いいですね。

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