自由のひろば選 (2021.7)

自由のひろば選 (2021.7)

手ざわり  御供 文範

手ざわりのある
生活をしたい
五感でふれるざわつき

いつものような
さわれることができ
こわれそうでも
やわらかさがあり
つつみこみ
抱きしめるあたたかさ
そんな手ざわり

手ざわりのない
日々をおくり
いつのまにかいちねん
いちねんという時間は
文様的には美しく
幾何学的に整っているのか

忘れかけた
手ざわりを探すように
自らの顔を鏡に映し
なでまわしてみる
温もりは交歓している

ああ みんな
生きているんだ

消えない記憶
頬をよぎった
名もない風の囁き
明日こそ
正夢で終わらなければ
手ざわりのあるいちにちを―

 

 

●選評

選評=草野信子
「いつのまにかいちねん」というのはコロナウィルスの感染拡大の時期を指しているのでしょうか。御供さんの表現は、ふれる、さわる、なでる、という行為の快感を静かに伝えてくれます。そもそも、コロナ禍以前、私たちは、手ざわりのある生活をしていただろうかと、考えさせられました。

 

選評=都月次郎
手ざわり、ぬくもり、そんな暮らしを取り戻したい。今多くの人が思っていることを作者は「新型コロナウイルス」という言葉を使わずに作品にまとめ上げた。その手腕はさすが、さて、いつか終息後、次にやって来るのは以前と同じ世界ではないだろう。果たしてどんな時代なのか、人類、生きもの達、地球など、大きな視点で想像力の翼を広げて描き出してもらいたい。

選評=おおむらたかじ
生きているその実感が欲しい。多分それはみんなの思い。手ざわりって何? 言葉で言われても具体を示してくれないと分らない。手ざわりがない。訴えていることは理解できる。この時代、生きている実感はうすい。だから、
「自らの顔を鏡に映し/撫で回してみる/温もりは交歓している」
「ああ みんな/生きているんだ」
と言う。むつかしいですね。

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