第48回(2014) 総評・選評

第48回(2014) 総評・選評

総評

考えない人間づくりに抗する  青木みつお

詩人会議新人賞に応募して下さったみなさん、ありがとうございます。今日多くの人が生活不安、就労困難におかれています。昨今の状況では人権や民主主義が鋭く問われることが少なくありません。詩を書くということは、考えない人間づくりに抗することでもあると思います。
詩部門の選考では、「新人」のふさわしい要件とは、作者の将来の可能性をどう考えるか、表現としていかにすぐれているかなど、さまざまな意見が出されました。結論として入選一、佳作二となりました。
赤羽さんの作品は気どりのない筆致で、村の図書館の営みとその意味をすきとおるように描き、余韻が感じられます。その土地に生きる自然の風物、図書館を介しての確かな暮らしの息が伝わってきて、魅力的です。
うえじょうさんの作品は巧みな言語表現によって、沖縄の過去と現在を豊かな比喩に託し、浮かびあがらせています。力量を持っていることが、構成力にもあらわれています。
髙嶋さんの作品は、馬に託したイメージで展開し、今日の状況を意識的に取りこんでいます。そこに詩作の課題もありますが、ご精進のあとを受けとめました。
ほかに、やんさん「ささやかな性癖」は人の器官の機能の不思議に着想を得た、独特の世界を描いています。
足立悦郎さん「三角ベース」は少年の日のユニークな情景を書いています。
関根裕治さん「かげろう」は自然と人の繊細な筆致が印象的です。
田島廣子さん「遺骨」は次回に期待したい力量と思いました。
評論部門では、佐々木甚一さん「命を賭した村上昭夫」は筆者の見解がもっとほしい。前川幸士さん「山上憶良とは如何なる人ぞ」は論旨をもっと絞ってほしい。永山絹枝さん「詩友『近藤益雄と上村肇』の希求したもの」は引用部分が多く、筆者の見解がもっとあっていい。近藤益雄については、別に書いてほしいとの声がありました。
この分野の新たな成果を、詩人会議として期待しています。「詩人会議」誌へのご参加も広く願っています。


選評

最後までせりあった今度の選考  磐城葦彦

最終選考の段階で入選と佳作対象作品をしぼり込んだ結果、三篇が残されて、特に佳作については意見が拮抗したが、その合間をぬうようにダークホース的な赤羽さんの「中川村図書館にて」の作品が入選となった。図書館を題材にイメージをふくらました内容が好感を得た。作品の感性と表現力を勘案して比較し、沖縄戦の集団自決を背景としたうえじょうさんの「記憶の切り岸」を佳作一席、馬を扱った作者独特の「白い馬がいる川のほとりで」を佳作二席に選ぶことで合意に達した。
その他、私は足立さんの「三角ベース」とやんさんの作品にも注目した。
評論について二次通過作品を選考したが残念ながら該当作品はなかった。


深く伝える  大釜正明

応募された作品の多くの作品に、生活から伝えたいメッセージの多様さを感じた。赤羽さんの終連の「刻まれてきたものよ/甦れ」の詩句が〈中川村図書館にて〉の題からの深まりを感じた。村の風景とともに人の温もり、爽やかな情景が伝わってきた。うえじょうさんの〈記憶の切り岸〉は読み深める中で、沖縄が深く書き込まれていることの素晴らしさを、痛みとともに鋭く感じた。髙嶋さんの〈白い馬がいる川のほとりで〉には、大きな情景を、白い馬を引き合いにしながら思いを広げているところに惹かれた。
評論部門では、佐々木さんの「村上昭夫」、永山さんの「上村肇」のことをさらに深く読みたいと感じた。


議論白熱それぞれの光  佐相憲一

赤羽浩美さんの詩は〈小さな村の図書館〉を通じて親子間、個人間に広い世界が手渡されます。書物への信頼と心のぬくもりがイメージ豊かです。
うえじょう晶さんの詩は硬質な言葉で沖縄の現状が描かれます。地形学的なものを人体になぞらえた痛みです。
髙嶋英夫さんの詩は馬の幻想に現実が展開され、語りのリズムが特長です。
ぼくが賞に推したのは、二十八歳のやんさんの「ささやかな性癖」。柔らかい言葉で、人間の根源的な身体感覚をとらえていて、地球や世界への通路が新鮮でした。関根裕治さんの「かげろう」も二人の間の心の会話が普遍的な共感を呼びます。こうした若い感性をもっと応援していきたいものです。


沖縄という傷  柴田三吉

入選の赤羽さん。天竜川沿いにあるという図書館が魅力的です。広々とした風景の中で、本を通して世代がつながり、文化が継承されていく。後半、言葉への信頼が、美しいイメージとなって読む者に届けられます。
うえじょうさんは、米軍基地が太平洋側に集中していることを身体の傷に置き換えて象徴化します。〈左から差し込む陽〉その先端にある沖縄。傷が痛み、膿み続けていることを身体の実感によって描き、衝撃を受けました。
髙嶋さん。思いは伝わってきます。けれど四連目がストレートすぎたようです。もう少し工夫があればと。
選考では、うえじょうさんを入選、赤羽さんを佳作一席に推しました。


見える詩、聞こえる詩  田上悦子

赤羽浩美さんの詩は、硝子の紅いリンゴから銀の魚が泳ぎ出すまで、言葉への信頼、愛、美、喜び、豊かさを深々と謳い上げている。図書館は何とも豪華な言葉の殿堂を思わせ、川沿いの小さな村に在るという設定が見事。読み手もまた、泳ぎ出す魚になりたい。うえじょう晶さんの詩は、沖縄史上最大の不幸を、視覚的に鋭く描いている。〝左から昇る陽〟に照らされた、痛んだ部分から眼を逸らさないでという叫びが聞こえるよう。個性的表現で完成度も高い。髙嶋英夫さんは、生命を繋ぐ根源的な力を、優しく純なものとして白い馬に象徴。他に、上野崇之さん、大川久美子さん、関根裕治さん、田島廣子さんの作品に惹かれた。


言葉へのゆるぎない信頼  南浜伊作

赤羽浩美さんの詩は、平穏で美しい親子の日常から始まり、伝わり醸され生まれる言葉へのゆるぎない信頼が読みとれます。やがて流れだす記憶から蘇る言葉は、自らの詩作への励ましや希望であり、癒しでもあることが伝わる作品として感銘を与えます。
うえじょう晶さんの詩は擬人化した表現にもかかわらず、沖縄の全図を描いて切実な戦争の傷痕と、続く苦難がそこに暮らす人々からの告発として痛切に響きます。ガマの風景と空気は臨場感があり、「見よ、さらに見よ」と呼びかけてきます。
髙嶋英夫さんの詩は幻視の馬の美しい形象や失われた自然と時間が、厳しい現実と対置され、抗議が響きます。

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