第46回壺井繁治賞   勝嶋啓太詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』

第46回壺井繁治賞   勝嶋啓太詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』

●受賞詩集抄

着ぐるみ

真夜中になったら
押入れの奥に 秘かに隠しておいた
着ぐるみ を
引っ張り出して 着るんだ
背中のチャックを閉めたら
ぼくは もう
真っ黒くて ゴツゴツした
かいじゅう だ
身長100メートル 体重10万トン
100本もの 鋭い牙が ズラーっと並んだ真っ赤な口から
100万度の炎を ガーって吐いて
なんでも かんでも 燃やしてやるんだ
でっかい足で なんでも かんでも 踏み潰す
長くて ぶっとい尻尾で なんでも かんでも 叩き壊す
嫌いな会社の上司も ぼくのことバカにした同僚も
口うるさい両親も ぼくのことフッたあの娘も
どいつも こいつも みんな踏み潰してやるんだ
幸せそうな奴らも 楽しそうな奴らも 全員 踏み潰す
みんな みんな ペチャンコだ
ギッタンギッタンの グッチャグッチャにしてやるんだ
国会議事堂も 都庁も 叩き壊す
東京スカイツリーも 東京タワーも へし折る
渋谷も 新宿も 銀座も 池袋も
東京は 全部 火の海だ
ぼくは かいじゅう だ
身長100メートル 体重10万トン
恐いものなんて 何もないんだ
かいじゅう になって 街へ出る
街は 眠っていて
しいん と静まり返っていて
発泡スチロールで作ったみたいに 頼りない
真っ暗な闇の中
街灯の明かりだけが
ところどころに ポツン ポツン とついているだけだった
誰もいない 真夜中の街を
ひとりぼっちで ノッシノッシ と歩く
なんか とっても

かなしくなった
家に帰って
着ぐるみ を 脱ぐ
着ぐるみ を 押入れに戻す
夜食のカップヌードルに
お湯を注いでたら
涙が止まらなくなった

友人が夜中に電話をかけてきた

僕の自主映画仲間だった友人に
ココロがこわれてしまった男がいて
しばらく電話がつながらないなと思いながら
毎日しつこく電話していると
20日目ぐらいに電話に出て
昨日 カミソリで手首を切ってしまってね とか
睡眠薬を通常の5倍飲んでしまって幻覚を見た とか
虚ろな声で言うのだが
そんなココロがこわれてしまった友人から
先日 夜中の1時ぐらいに電話がかかってきた
今まで彼の方から連絡してきたことなんてないのに 珍しいな
と思って 電話に出ると
いつにも増して さらに ココロがこわれていたので
どうしたのか と聞くと
エンドウ君が死んでしまった
つらくて 結局 葬式にも出られなかった と泣きながら言う
そこから
支離滅裂で要領を得ない話が約3時間も続いたのだが
僕の読解力と推理力を最大限駆使して 話を要約すると
どうやら エンドウ君は 友人の中学時代からの親友で
友人は鬱がひどい時でも
彼とだけは連絡を取り合って 話をしていたらしい
優しくて 明るくて 温かくて
友人の支離滅裂な話にも腹を立てることなく
何時間でも穏やかに話を聞いてくれたのだそうだ
彼と話をしていると いつでも
気持ちが落ち着いて 元気が出た と友人は言った
でも エンドウ君は 死んだ
自殺 だった
電車に飛び込んだ
遺書はなかった
プラットホームに靴が揃えて置いてあった
友人は 彼が死んで初めて
彼が 長い間 鬱病に悩まされていたことを 知った
会社に勤めていると思っていたが 無職だった
俺は彼に何でも話したのに
彼は俺に何も話してくれなかったんだ と友人は泣いた
もし 話してくれていたら
彼を助けてあげることが出来たかもしれないのに
と友人は言った
僕は そんな友人の言葉に 何故か 無性に 腹が立って
じゃあ キミは 今度 カミソリで手首を切る前に
僕に電話してきてくれるかい と言った
友人は しばらく 黙りこんで
そして
もう夜も遅いから と言って
電話を切った

友人は 世界を守っている

休日に 何年ぶりかで友人と会う
待ち合わせた喫茶店に行く
友人は 5分ぐらい遅れて
真剣な表情でスマホの画面を見つめながら
やって来た
ぼくは気楽なバイト生活だが
友人は結構大きな会社に勤めているので
大変だな 休みの日も 何かと
仕事関係の連絡とか入ってくるんだな
と思っていると
オクレテゴメン と
友人は スマホから目を離さずに 言った
久しぶりだね とぼくが言うと
アア ヒサシブリダネ ゲンキニシテタ? と言うので
まあ ぼちぼちかな とぼくが言うと
フ~ン と曖昧な反応
その間 友人がスマホの画面から目を離すことはなかった
ぼくが ブレンドを頼むと
友人は ア オレモ と言った
ぼくが コーヒーを飲むと
友人も コーヒーを飲む
その間も 友人は一度もスマホから目を離さず
時折り 素早く 何やら操作したりするのであった
よっぽど仕事忙しいんだな と思い
話しかけちゃ悪いような気がして 黙っていると
ン? ドウシタノ? と友人が聞いてきた
いや 忙しいのかなと思って と答えると
友人は スマホの画面を見つめたまま
不思議そうな顔をする
だって ずっとスマホいじってるから と言うと
友人は アア ソウイウコトカ と言い
イヤ~ ドラゴン ガ ナカナカ テゴワクテサ と言った
友人は 邪悪なドラゴンから 世界を守り
お姫さまを救出するために 戦っていたのであった
……世界を守らなきゃいけないんだったら
そりゃ 忙しいわなあ……
そう思いながら コーヒーを飲み干す
なんか いつもより 苦い気がした
ふと 周りを 見渡すと
喫茶店にいる客は ぼく以外 全員
一心不乱に スマホをいじっていた

この人たち みんな
邪悪なドラゴンから
世界を守っているのだろうか?

ぐるっと まわって

父はあまり少年時代の話をしたがらない
昭和八年生まれの父にとって 少年時代の記憶は
〈戦争の記憶〉であり それは〈飢えの記憶〉であり
〈思い出したくない記憶〉なのだそうだ
父は男ばかり四人兄弟の末っ子で
幼くして父親を病気で亡くし
母親の女手ひとつで育てられたのだが
勝嶋家はすごく貧乏で
特に戦時中・敗戦直後はひどかったらしい
ロクに食うものもなかった
子供心に感じた あのひもじさ 惨めさは
経験してない人には決してわかってもらえないだろう
と父が言うのを聞いたことがある
一番上のお兄さんが捕虜としてシベリアに抑留され亡くなり
その遺族年金で辛うじて食い繋いだ と
亡くなったおばあちゃんが話していた記憶がある
死んでまでも親孝行な子でした と言って
おばあちゃんは 泣いた
父は奨学金とアルバイトで大学を卒業し
妻と三人の子供たちを養うために
商社マンとして アフリカや東南アジアの各国に
単身赴任で乗り込んで行って
日本の高度経済成長の尖兵として働き続けた
父にとっての〈戦後〉とは〈平和〉とは
ひたすら〈飢えからの脱出〉だったのだ と思う
「なんだかんだ言っても 自分にとっては
食べるものがある 今が いちばん幸せだ」
それが 父の口グセだった
そんな父が 最近 テレビのニュースを見ながら
とても悲しそうな顔をすることが多くなってきた
総理大臣が自衛隊の式典かなにかで
にやけた顔で戦車に乗って敬礼しているのを見た時には
画面に向かって「アイツはダメだ」と本気で怒っていたが
二人の日本人ジャーナリストが中東のテロリストに殺され
そのキッカケとなった軽率な発言をした 件の総理大臣が
何の責任も感じていないかのように
「テロとの闘い」を口にしているのを見た時は 言葉もなく
けわしい顔で ただ黙って 画面を見つめていた
そして テレビを消し
「いろいろ がんばって やってきたけれど
ぐるっと まわって
結局 また 戦争 かな」
と 本当に 本当に哀しそうに つぶやいた

サムライブルー

たまたま テレビをつけたら
サッカーのワールドカップの中継をやっていて
日本がコートジボワールと戦う ということなので
コートジボワールってどこにあるんだっけ? とか思いながら
なんとなく そのまま 見る
別にサッカーに興味があるわけでもないし
愛国精神にあふれているわけでもないので
日本代表チームが 勝とうが 負けようが
ぼくにとっちゃあ どうでもいいはずなのだが
ホンダがゴールして 1点先制したので
何故か 盛り上がって
ニッポン ニッポン とか 応援してしまう
これ 勝てるんじゃないの と 期待して 見ていたのだが
ちょっと トイレにウンコしに行ってる間に
2点入れられて 結局 逆転負けしてしまったので
なんだよ 弱えな とガッカリしつつ
昼飯を食べに いつものように 三丁目の来々軒に向かう
店に入ると
そこにいる人たちがみんな サムライブルーだったので 驚く
来々軒のオヤジまで サムライブルーで
ぶっちゃけ 似合ってない
どうやら 商魂たくましい来々軒のオヤジが
何の関係もないのに ワールドカップの人気に便乗して
来々軒でも テレビ中継見ながらみんなで応援する
という町内会イベントを やっていたらしい
で みんなで 日本代表のユニフォームまで着て
盛り上がり 結局 盛り下がり
今は みんなで 不機嫌な顔で
黙々と ラーメンを喰っている というわけだ
サムライブルーで ココロもブルー か
などとバカなことを考えながら ラーメンを喰う
……まずい
サッカーより前に このラーメンをなんとかしろ と思う
もしかして
日本が負けたからじゃなくて
みんな まずいラーメン喰ってるから 不機嫌なんじゃないの
と思いつつ 周りを見渡すと
いつの間にか 誰もいなくなっている
オヤジも いつの間にか サムライブルーじゃなくなっていた
ラーメン喰い終わって 街へ出る
街のあちらこちらに
不機嫌な顔をした人たちが立っている
この人たちも
さっきまで サムライブルーだったのだろうか?
それとも まずいラーメンを喰っただけなのだろうか?

海坊主

あそこの水平線
ずいぶん もっこりしているなあ と思ったら
大きな 大きな
海坊主 の頭だった
小さな 小さな 声で 一心不乱に
何か ぶつぶつ言ってるみたいなので
耳をそばだてて よく聞いてみると
お経みたいだった
何してるんですか? と声をかけると
魂 を供養しています とのこと
ああ そう言えば
今日は 三月十一日 でしたね
あの時は
たくさん たくさん
津波で亡くなったんですよね
そうです 海には 行き場を失った 魂 が
たくさん たくさん
漂っていますから
ちゃんと供養して 空に送り届けてあげないと
いつまでも いつまでも
星になれなくて かわいそうですから と言う
でも ここ 東京ですよ
フクシマ県沖じゃないんですけど
いえ 結局 海は ひとつですから
ここまで流されてきて
迷子になっちゃった 魂 が
かなりいるんですよ
見つけてあげなきゃ かわいそうです
海坊主さんも 結構 大変ですね
まあ 大変ですけど
わたし このためにいるんで
一応 坊主なんで わたし
では失礼 先を急ぎますので
夜になるまでに あとひとつか ふたつは
見つけて 供養してあげたいので
海坊主さんは そう言うと
水平線の向こうに去って行った
お経は いつの間にか 波の音に変わっていた
気がつくと 水平線の向こうに太陽が沈んでいく
海坊主さんは
今日いくつ 魂を見つけられたのだろうか?

今夜は いつもより 星 が 多いみたいだ


●受賞のことば

なんかお尻の穴がムズムズするような
勝嶋啓太

僕の詩は、別に高邁な思想や立派な社会的テーマを掲げたり、文学的表現が云々といったような、ムズカシイ顔して読むものでは決してなく(というか、そもそもそういう事を書ける知性がない)、ヒマな時にパラパラッと拾い読みして、クスッと笑ったり、んなアホなってツッコんだり、バカだねぇって呆れたり、ちょっとイイ話だなってほろっとしたり、なるべく楽しく気軽に読んでもらえるようなものをと思って書いているので、賞なんて自分にはまったく縁のないものだと思っていました。ですから正直、受賞の知らせを受けて、驚き、むしろ戸惑っています。ホント、俺でいいのかな……。
まあ、もっともっと頑張って詩作に精進して、もう少しマシなものを書きなさい、っていう激励的な意味なのだろうなと思っております。
そんなわけで、自分としては正直、なんかお尻の穴がムズムズするような、居心地悪い感じなんですけど……でも、この詩集の編集を担当してくれたコールサック社の佐相憲一さんや、装幀の杉山静香さん、「潮流詩派」で長年お世話になっている麻生直子さん、僕の活動に何かと協力してくれる有り難い職場・うめの木作業所の人たち、詩人仲間・映画仲間・演劇仲間の友人たち、そして物心両面に亘って支援し続けてくれている父と母…等々、世話になりっぱなし、迷惑をかけっぱなしのままになっている人たちに、今回ちょっと良い報告が出来るので、少しは今までの恩返しが出来たということになるのかな、と思って、そのことが何よりも嬉しいです。


略歴
1971年8月3日、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、知的障害者の福祉作業所で職員として働く傍ら、自主映画のカメラマン、劇作家としても活動。
詩人としては、詩誌「潮流詩派」「コールサック」「腹の虫」「木偶」を中心に作品を発表。日本詩人クラブ会員。
詩集は、今回受賞の『今夜はいつもより星が多いみたいだ』の他、『カツシマの《シマ》はやまへんにとりの《嶋》です』(2012年、潮流出版社・刊)、『来々軒はどこですか?』(2014年、潮流出版社・刊)、『異界だったり現実だったり』(原詩夏至氏と共著、2015年、コールサック社・刊)がある。


選考経過

第四六回壺井繁治賞の選考委員会が三月三日(土)詩人会議事務所で開かれ、勝嶋啓太詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』(コールサック社)の授賞をきめました。
選考会は、秋村宏、上手宰、佐々木洋一、田上悦子、三浦健治の選考委員五氏出席で開催され、互選で三浦健治氏を選考委員長に選出しました。司会進行・秋村宏。
会員、会友から推薦された候補作のリストを確認、選考対象としての吟味後、二九詩集を選考対象にすることを確認しました。一委員につき七詩集を無記名投票の上、次の一八詩集を第一次選考通過としました。
青井耿子詩集『かもしか』
赤木比佐江詩集『一枚の葉』
あさとえいこ詩集『神々のエクスタシー』
井上摩耶詩集『鼓動』
遠藤智与子詩集『その先へ』
おだじろう詩集『落日の思念』
柏木咲哉詩集『万国旗』
勝嶋啓太詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』
河津聖恵詩集『夏の花』
くらやまこういち詩集『生きっちょいさっさ』
坂田トヨ子詩集『源氏物語の女たち』
佐川亜紀詩集『さんざめく種』
芝憲子詩集『沖縄という源で』
中村純詩集『女たちへ』
宮内洋子詩集『わたくし雨』
八重洋一郎詩集『日毒』
吉村悟一詩集『何かは何かのまま残る』
若松丈太郎詩集『十歳の夏まで戦争だった』
その次に、各自四詩集以内の無記名投票で、次の一〇詩集を二次選考通過としました。赤木比佐江詩集、あさとえいこ詩集*、遠藤智与子詩集*、勝嶋啓太詩集*、くらやまこういち詩集*、佐川亜紀詩集*、芝憲子詩集*、中村純詩集*、八重洋一郎詩集*、若松丈太郎詩集。
各詩集について、ていねいに討論、第三次選考通過として*印の八詩集を選び、そのなかから各自推したい詩集を述べ、勝嶋啓太詩集と八重洋一郎詩集が推され、討論の後、勝嶋啓太詩集に授賞を決定しました。
(記録 編集部)


選評

身近な詩集
秋村宏
例年より推薦者が多く、会内外の力ある詩集が揃った。これは運動の充実と無関係ではなく、おそらく今後もより巾ひろい、多様な詩集が推薦されてくるにちがいない。
勝嶋啓太詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』がおもしろかった。といっては内容に反するかもしれないが、作者の目線の低さを感じ、いまの閉じられた社会のなかで暮らす男が語る言葉が身近だったのである。それは物語をつくる想像力であり、生きることへのこだわりであり、そこからの苦み、ユーモア、諷刺である。いままでの壺井賞とは異なる内容の詩集といえる。
佐川亜紀、遠藤智与子、あさとえいこ、倉山幸一、各氏の詩集にも心ひかれた。

怪獣が死んでいる街角
上手宰
勝嶋啓太の世界は孤独に満ちているが優しい。人類に敵対する強者の怪獣は、今や私やあなたの化身にすぎず街角にぼんやり立っていたり、ある日、四丁目の角で死んでいたりする。リサイクルショップで買った「希望」はニセモノだし、待ち合わせの相手が誰だったかも忘れる希薄な世界だ。なのになぜか生きていることへの愛着が湧き起こる。面白さの根底に潜む暖かさと真剣な眼差しに引き込まれ強く推した。
佐川亜紀詩集は現代社会の矛盾に真っ向から挑む戦闘性と表現意識との融合を図った意欲作であり、くらやまこういち詩集は農に生きる人々の生活を一見地味だがしなやかな詩表現に結実させ、ともに上位候補に残った。

独自な勝嶋ワール
佐々木洋一
今回の候補詩集は、それぞれに独自性を感じた。ただ、それが読み手に拡がってくる詩集は少なかった。
勝嶋啓太詩集は、人間との出会いや擦れ違い、人生の機微などが、劇的な筋立てや手法で表現されている。また、怪獣など架空の存在が、生々しい現実を寓意的な空間に仕立て上げている。
ユーモア、諧謔、社会批評など独自な勝嶋ワールドは、読んで面白く、これまでの壺井賞とは一味違った一冊となった。
他では、中村純『女たちへ』、遠藤智与子『その先へ』、あさとえいこ『神々のエクスタシー』に惹かれた。井上摩耶『鼓動』は、生きることの切なさが、こころに響いた。

繊細な感性で都会人を視つめる
田上悦子
〝シンドイんスよ〟〝関係ねえだろう〟〝別にいいじゃん〟などと、現代のクールな言葉を使いながら織り上げた詩集『今夜はいつもより星が多いみたいだ』は、心にふと忍び込む思いや考え、疑問などを、個人の暮らしから社会現象まで幅広く謳い上げている。生きることの悲しみ切なさ、愛しさがどの詩篇からも滲み出て胸打たれた。最後の詩篇「海坊主」の最終行はこの詩集の表題。きょうの日供養されて増えた北の人の星でもある。感動的な映画のラストシーンのよう。視覚的に優れた詩篇が多くあった。代々沖縄人である八重洋一郎の『日毒』を最後まで推した。人間の悪業の本質に迫り暴く、言葉の力を強く感じさせる詩集である。

時代の求めていた詩集
三浦健治
八重洋一郎氏の『日毒』を推した。政治や歴史をナマに叙述した部分もあるが、それも作者の生の奥底から噴出したマグマのように感じられた。抑圧された歴史が住民の魂と一体化している沖縄ならではの詩集だろう。
勝嶋啓太氏の『今夜はいつもより星が多いみたいだ』は心に染みこんでくる。伝統的な詩法から切れていて、一見初心者のような印象を与えるが、完成度は高い。いわばメタファにかわる虚構のドラマという詩法。その虚構のドラマは人間と時代の真実をつく。就職氷河期以降に社会に出た世代のつらい思いが、自己批評のユーモアで表現されている。気負いのない身辺的な詩だが、時代の求めていた詩集だ。


 

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