第40回(2006) 詩部門入選 おぎぜんた

第40回(2006) 詩部門入選 おぎぜんた

詩部門入選 おぎぜんた

1952年鹿児島生まれ。ケニアに本部のある国際農業研究機関World Agroforestry Centreにて植物生態学研究員。詩作は2002年度から本格的に。


受賞のことば
30年程前、言葉はいつも僕をあざ笑っていました。50を過ぎてから、ようやく言葉が、和解の手を差し伸べてきたような気がします(単に年齢に免じて赦してくれているだけかもしれませんが)あの時、完全に決別しないで良かったと思います。心の中に豊かな詩の森の「香華」の訪れる日を辛抱強く、かつ積極的に(精進しながら)待ちたいと思います。ありがとうございました。


ノー!
おぎぜんた

「ワッハハハハハ、アッアッアッアッアッア!」と
喉をしぼり笑いながら首を振る黒人たち
アフリカはいつも「ノー!」と言う

酔ってふらつきながら女が呟く「ノー!」
額に血を流しながら男が叫ぶ「ノー!」

ストリートの子どもがシンナー瓶を片手に
ポリスから逃げ惑う
ガラスの破片が裸足の足に突き刺さる
売春を強いられた小さな女の子が
汚れた足を気にしながら泣いている
「ノー!」

スラムの若者はヤンキースの野球帽をかぶり
メチル入りの安酒でマリファナ吸いながら
「ノノノッ!」と全身を揺らす
明日は眼がつぶれているかもしれない
スカベンジャーがゴミ袋を背負い
路肩を呟きながら通り過ぎる
ずり落ちそうな垢と泥で汚れた服は
狂人のしるし「ノンノンノ!」
ポリスも近寄らない

誰も先進国になるのを望んでいないのに
望んでいるはずだと白人や黄色人たちは言い
装甲車のような四駆に積んだ金がばらまかれる
拾っているのはスーツ姿の黒人たち
同じ白髪頭の黒人たちが
政治腐敗をなんとかしようと
高級ホテルに集り 椅子を投げあっている
「ノーノーノーッ!」

路上では男たちが 帽子 計算機 サングラス 子犬や子兎を売り 果ては「青い鳥」まで売る 「イエス」という金の出てくる「神」を信じて

夜になると娼婦たちが
暗闇から黒曜石のように光る腕をのばし
人差し指でクイクイと招く
振り向かないと「シーシー」と
舌を鳴らして呼ぶ
彼女たちは「ノー!」と言わない
老いた母がスラムで待っているから
子ども達がお腹すかして泣いているから
病気の夫が闇の中の炎を見つめているから

「ノーノーノーオオオオオ!」
心の底から叫ぶ黒人たち

善意の金をドッグフードのように
彼らの前に放り投げるな
押し売りの笑顔で彼らの心を汚すな
誰もがお前たちの望む
発展をしたいわけじゃない
誰もが大地の線引きに
同意したわけではない
誰もがお前たちの望む黒人に
なりたいわけじゃない

「アフリカは石器時代だ」と白人は嗤う
「アフリカは鎖国化すべきだ」と
日本人は言う

彼らが眼を閉じ 叫び 首振るとき
原始の夢の中へ還ろうとしているのだ
革靴を脱ぎ スーツを放り 両手を突き上げ
ドラムの音に激しく腰を振る黒人たち
笑い声がマラヤたちの叫び声と共に
赤い天井に響く
鏡に映る黒い群れがサバンナの
ライオンと向き合う戦士たちのように
ジャンプとスイングを繰り返す
「ノッノッノッノッノッノッ」
裸足の音が太古の地響きとなる
槍を持つ戦士たちの腕が汗に震える

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