第40回(2006) 詩部門佳作入選 坪井大紀

第40回(2006) 詩部門佳作入選 坪井大紀

詩部門佳作入選 坪井大紀

1970年名古屋生まれ。所属「翔」。引きこもりやニートの集まる「日曜倶楽部」にて活動中。


受賞のことば
この度は、私の拙作を選んでいただき有難うございました。この作品は、実はかなり昔に書いたものを大幅にアレンジしたもので、職安と呼ばれていたものは今はハローワークとなり、会社を調べるのも今ではタッチパネル式のディスクトップ画面上で行われ、ちょっとしたインターネットカフェのようです。でも当時の僕の心境を表すためにも、あえてそこはそのままにしました。これからもいいものを作っていきたいと思います。


エントリーシート

坪井 大紀

白い花が道端で
何度も車に轢かれている

朝から降り続いた雨は
今はもう泣き止んでいるけど
空はまだ
鈍色の憂いを湛えている

こんな日にもかかわらず
厳めしい顔をした職安は
表情を失くしたままの失業者で溢れ
蒸し返す記憶と人いきれの中
倒れそうな嫌悪感と闘いながら
僕はその奥へと入っていった

きっと
外から見たら僕もまた
同じ顔した失業者なんだ

手に取った求人ファイルを
パラパラと捲ってみるけど
滲んでゆく文字の羅列は
ただ網膜を通り過ぎるばかりで
ふやけた頭に入ってこない

ボヤけてゆく意識の中
求職申込票を書き込んでみるけど
途中で嫌になって
飛び出してきてしまったんだ
自分でも分からずに

黒く濡れたアスファルトが
渇き始めた太陽を照り返し
揺れ出した空気の中を
よろめきながらしゃがみこんだ僕は
タイヤ痕の付いたその
白い花を手に取り
側を流れる川岸へと
誘われるように下りてゆくと
僕の大切な何かのように
両手でそっと
その川に流した

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