第40回(2006) 詩部門佳作入選 今岡貴江

第40回(2006) 詩部門佳作入選 今岡貴江

詩部門佳作入選 今岡貴江
1973年生まれ。国士舘短期大学国文科および国士舘大学文学部卒業。東京都出身。埼玉県在住。2003年『詩人会議』「自由のひろば」年間最優秀作品。


受賞のことば
かつて、詩人会議規約・前文にひとめぼれして、電車に飛びのりました。大塚駅の長い階段をベビーカーごと転がりおち、それでも協立第三ビルに踏みこんで、遠慮なく種を蒔いていったら、親切な諸先輩方が根気よく水をやり、栄養を与えて育ててくださいました。途中、人生なんども枯れかけて、そのたびお陽さまを求めて大塚駅に行きました。すると、優しい顔をした詩人たちが駅のホームで大勢待っていて、もう何度目かに使う古いベビーカーを、みんなでかついで階下まで運んでくれるのです。私は、涙なしでは〈詩人会議〉を語れません。
佳作という最高級肥料までいただき、これからが自分も詩人として本当の下積み時代がはじまるものと思っています。
ありがとうございました。


てのひら

今岡 貴江

幼い頃に知っていた色が
いまではもうわからない

若い頃に感じられた音が
いまではもう見えない

心のまま走れたのに
そしらぬふりをする

子どもにたくさんの宇宙を与えたいと願い
わたしのようになってほしくないと思い
なにかを操作しようとしている

おまえは走るだろう
行きたいところにむかって
大きな声でお名前がいえなくても
その名前の意味を感じている

必要のないものは散らかして
大事なものだけ青いリュックにつめて

そうだ
わたしがお前を産んだのは
わたしがお前を生み出したのは
この生命に喜びを覚えた日だった

与えようとして
かばおうとして そして
守ってもらおうとなどという企み を
わらって だから 逃げて
上手に笑うわたしから
安定が怖いと言ってはぐれて
それを後悔した時から
お前に会えるのを待っていただけの弱虫のママだ

両腕とおくにのばして
わたしから分離するお前
わたしがお前から生まれる瞬間

教えたかったのは

桜の緑から降りおちる億万のひかり
*
*
*
浜辺でなぞったサーフボードの軌跡
わたしが知っているのは
確かにたったこれだけのてのひら

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