第38回(2004) 詩部門佳作入選 山田よう

第38回(2004) 詩部門佳作入選 山田よう

詩部門佳作

山田よう
1953年群馬県生まれ。学校講師。
詩人会議、山形詩人会議、日本詩人クラブ。


受賞のことば

このたびは、思いがけず新人賞佳作の受賞となり、有り難く感じるとともに、たいへん恐縮しています。東京や、遠く秋吉台の詩の勉強会に、突如出かけて消えてしまう母親を見て、“わけのわからないもの書いて、何してる?”と訝し気だった思春期の娘たちが、一番喜んでくれました。

今回、詩を書き続ける大きな励ましを頂き、詩人会議の皆様、詩の先輩、友人たちに、心から感謝します。


虚構の中へ  山田よう
勤めを終え

夕食の仕度も済んで

これから向かう

劇団の稽古場

 

車を走らせアクセルふかす

 

信号待ちの時間は

変身の時間

 

最初の信号待ち

貧しい農家の健気な一婦人に

だんだんなっていく

 

目つき、姿勢、しゃべり方

誰もいないのをいいことに

大声で台詞を言う

「ねー、とーちゃん、とーちゃんてば」

 

二度目の信号待ち

舞台装置を思い描き

演じる自分を想像する

 

信号待ち三番目

頭の中で効果音と音響が

鳴り響く

 

最後の信号は

どうやら待たずに通れるが

台詞がくるくる脳みそをかき回す

 

現実世界を脱ぎ捨てろ

嘘の自分になってるか

役者してるか

 

虚構は楽しい

コメントは受け付けていません。