自由のひろば 2025年3月号

自由のひろば 2025年3月号

ことば あそび 大原加津緒

身ぶるいが来るほどの孤独が
私をことば遊びの世界にみちびく

十五才 中学を出ると
東京という荒海に
一人投げ込まれた
着替えのないはづかしさが
貧乏人のはづかしさが
東北弁のはづかしさが
私を無口にした
いっそうの孤独感を増させる

すでに職場は三か所目
同僚同室が眠りにつく
私の言葉あそびが始まる
深い夜がまたまた
豆電球のかすかなあかりが
私を独りの世界に呼んでくれる
思った事もないような
とんでもないことばの
一人遊び
畳三枚を三人で
陣地争いするように
一人じめしても三畳間だけど
自分の小さな荷物を
拡げる住込の習性

あれから六十五年も
数えるというに
近ごろまた夢かうつつか
想われる
先日北千住に行く用事ができて
その頃 おさないことばをひろった
荒川土手
無言でさざ波をたてて

土手で出逢った人から
その時の三畳間の友の一人の
元気を聞いた

 

●選評

中村明美
「集団就職」「金の卵」と言われた時代があった。その時代の匂いや風景が、丹念に描かれている。ひとは、ことばで育つ。住み込みの身の、僅かに自分に戻れる時間。幼いことばは世間の波の中で大きく成長した。題が、ことばとあそびの間に、一呼吸間がある。あそびは文字通りのあそびであり、また生きる術、ことばの緩急を育ててくれた精神的な要素でもあるのだろう。川のさざ波が、人生を去来させて印象的。

 

横山ゆみ
十五才の作者の孤独感が、「はづかしさ」の繰り返しによって胸に迫る。一気に感情移入させられた。その先は空間の演出が素晴らしく、狭い「三畳間」でことばあそびの世界の広さを引き立てたのち、「荒川土手」の開放感で追憶に光を差し込んでいる。二連目の「荒海」から五連目の「さざ波」への移行も作者の内面と重なり美しい。胸が一杯になる作品だった。

 

渋谷卓男
この詩の良いところは、人という、孤独を抱えたまま生きていくしかないものの人生の重さが伝わってくる点です。書き出しの二行も大変魅力的で、作品のなかに読み手を一気に引き込む力を持っています。残念なのは言葉あそびがどのようなものかわからないことで、それを具体的に描くとさらに強い詩になるでしょう。

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