更新情報
 或る日のインド洋  立会川二郎 ガチャリとバルブが結合された静かなインド洋上 アケイ少年はこの日が待ち遠しかった今日は大好きなイスマエル兄さんの結婚式モスクのモザイク模様のタイルに陽が映えるアケイ少年はこの日の為に参拝者の荷を運びチップを貯めて街に出て花火を買っていたイスマエル兄さんと花嫁のアニラさんがモスクから出てきた響き渡る列席者の歌声アケイ少年は花火に火を付けたバーンと音がして花火が飛び散った アケイ少年は空が曇ったと思った少年がみた最後の空だった大きな鳥の影が空を覆ったその瞬間鳥の翼から閃光が放たれたモスクのモザイクの壁が崩れ落ちた鳥は去り瓦礫の山が残った ガチャリとバルブが結合された静かなインド洋上 日本国海上自衛隊給油艦からアメリカ合衆国海軍補給艦への洋上給油活動が始まった静かなインド洋上 アメリカ合衆国海軍原子力空母に艦上爆撃機が戻ってきた 或る日のインド洋静かな静かなインド洋上  ●選評おおむらたかじ 静けさの中で、ガチャリと音、一連で決まりですね。その時、イスラム圏のどこかで、少年が心待ちにしていたモスクでの兄の結婚式。少年はこの日のためにチップを貯めて花火...
●永山絹枝受賞著作抄    目次 Ⅰ 魂の教育者詩人近藤益雄「戦前」一、長崎綴方教育の創始者二、益雄と第一童謡集『狐の提灯』(上志佐小時代)三、第二童謡集『五島列島』(小値賀小時代)四、文詩集「勉強兵隊」と童詩教育五、リアリズムとヒューマニズムの道へ――児童生活詩として長い詩を――(田平尋常高等小時代)六、地域の文化を高めるために〝貧困との闘い〟――児童生活研究所の創設――(田助尋常高等小時代)七、決戦体制下の混迷と葛藤の中で――「人間・益雄」を支えた短歌会(平戸高等女学校時代)――八、短歌集『火を継ぐ』――どうしたって黙っていられるものか 愛するものを死なしてしまって―― Ⅱ 魂の教育者詩人近藤益雄「戦後」九、民主国家・民主教育建設への道①――綴方復興・胸のおどること!――十、民主国家・民主教育建設への道②〝益雄が夢みたものは〟貧しさからの解放、ゆたかさの建設――学校を村の文化の源に 田助中教頭・田平小校長時代――十一、知的障がい児教育の歩み①「みどり組の誕生」――これがほんとうの私のイス あたたかな日のこどもがもたれてきたり――十二、知的障がい児教育の歩み②「書くことの指導」――言葉の感覚を磨くことは生活感情を美し...
●白根厚子受賞詩集抄 母のすりばち 母は よく話をした東京の空襲がはげしくなって父の田舎である秋田へ疎開そんな中でも母は いろいろと語ってくれたすりばちもその一つだ 秋田へ疎開して何年過ぎただろう東京へ帰るめどもたたず父は鉱山の職場へ仕事に就いた母はあきらめがつかないのか よく溜息をついていたある日 父が花輪町へ行こうと わたしと母を連れて行ったずらりと上から 下まで商店街だった戦争が終わってから 三~四年だったろうかこの街は むかしのにぎわいを取り戻そうとしていたにちがいない母の嬉しそうな顔をしばらくぶりで見た荒物屋ですりばちをかったのだ母の料理は なにかとすりばちをつかうすりばちでごまをする 味噌をする……――このすりばちはじめて 父ちゃんに買ってもらったんだと嬉しそうな顔がわすれられないすりばちも 二十年 三十年使うと 目がすりへって使えない 疎開してから 二十五年目東京へ戻ったすりへったすりばちも荷物の中にあった あの すりばちを買った商店街は 鉱山が閉山になってからシャター街になったもう 思い出のひとこまになってしまったすりばち型の 盆地の町だ     戦...
ヒコクミン   ひだかよし 会うたびにしなやかに成長している孫たちの姿それに元気をもらいながら心の自由がなかった時代のわたしの年齢に重なるヒコクミンことばの意味は分らず良くないときにつかうことばと思っていた ケンペイさんが突然家に来て父の本箱や母のタンスをひっくり返して帰っていった神棚もなく敵国の神を信じるヒコクミン赤ちゃんのおむつの干し方が暗号を送るスパイ容疑にされたわたしはヒコクミンの子になった 学校で歌うのは軍歌ばかり軍歌を知らない私に先生はやさしく ともに歌ってくれた ある日 好きな歌はと問われチューリップの歌をハミングしたら日本人なら菊の花を歌えと叱られた 毎月八日は戦争の勝利を願うため全校で町の氏神さまに参拝ヒコクミンの子が鳥居をくぐるとケガレルからと そう先生に言われ列の最後尾 ひとりで鳥居の外を歩いた ケガレルとは何ですかそう問いても 答はなかったひとりぼっちは淋しかった 戦争が終わり心の自由よ 永遠に続け不戦を誓った父の想いその想いとともに生きてきたわたし孫たちに このばあばあの声はどこまで届いているのだろうか ●選評 都月次郎 戦後生まれの人たちにとっては、信じ...
新人賞詩部門  一人一篇。四百字詰原稿用紙三枚以内。テーマ自由。評論部門 一人一篇。四百字詰原稿用紙三〇枚以内。テーマ=詩に関するもの(詩論・詩人論・詩史論など。なお、参考引用文献などを別紙に明記のこと)。応募資格 特になし。応募作品は商業紙誌・詩集等に未発表のもの。ただしサークル・グループ・同人誌上に発表の作品はこの限りではない。この場合は、発表詩誌名・年月を明記のこと。略歴 氏名(本名)、年齢、職業、郵便番号、住所、電話番号、所属文学団体などを原稿末尾にそえること。締切 二〇二一年一月一〇日(当日消印有効)送り先 〒170-0004 東京都豊島区北大塚二-一八-三-二〇二    詩人会議新人賞係  
●自由のひろば 作品 聖火  田村きみたか 聖火は福島で止まった聖火は東京へ行くことはできなかった 巨大な怒りの意思を感じないか人間どもに対する巨大な意思が感じられないかこんな汚れたオリンピックは要らない多くの人を不幸に突き落とすだけのグローバル経済とやらもご免だ何か巨大な怒りの意思を感じないかその正体が何であるのかは永遠に分かりようがないが 何かとてつもない怒りの意思を感じるのだ 「復興五輪」開催のために遙かギリシアからやってきた聖火が福島で止まってしまったそして東京へ入ることはできなかった東京に電力を供給するために福島の原発でとてつもなくひどい事故が起きた東京に電力を供給するために福島で大惨事が起こって そのために故郷を失った人たちが大勢いるそのことに目を瞑って見ないふりしてもう福島は大丈夫なのだと東京オリンピックは言うさすがに何かの巨大な怒りがその汚れた口を塞いだ 聖火は怒りの炎である遙かな時空を超えて福島にやってきた聖火は怒りの炎であり人類への警告である変わり果てた原子力の火が引き起こしてしまったその現場にやってきた聖火は号泣したただ ただ そこに泣き崩れるしかなかったのだ ...
あおぞらの詩   小篠真琴 あおいろのそらの向こう側太陽がうつむき加減を失くしていくとききみは、あおいそらの切れ端をくちびるで押さえて歯茎からまっ赤な血を流す すると、抑えていた感情が分離したヨーグルトの上澄みみたいにすこしすきとおって流れ出すからその流れた部分を、ぼくはきみと十分に味わえるようにとカスタードクリームに混ぜ合わせていく地球儀のコマはくるくる回ってあしたからの風を、東方へ送り出した 夕闇は、もうすぐそこだよ あおいろのそらはもう用がないと言われた気分になりすこし哀しくなったのだから自信を取り戻した太陽とくるくる回った地球儀のそばでできるかぎりの愛妻家ぶりをはっきする それが、じぶんと地球とのこれから長いお付き合いの始まりだとあおいそらだけは知っていて無防備な地球はアリの行列を見守るくらいしかできない気になってやっぱり、太陽は東側に沈むんだなと迎え入れられた夕闇に問いかけていた 本能は、こっそりと臍を嚙む  ●選評 選評=草野信子 その色、その美しさを、どのような言葉で伝えたらいいのだろう。そんな夕焼けに出会う日があります。小篠さんは、喩によって、刻々と変わる空の色...
      すずめ すずめは米や麦をことわりもなしにくってしまう けれど百姓たちは、まとめて殺すことはしなかった じぶんの分身を畑やたんぼのなかに立てて どこかにいけ、と指さすのだった     牛 牛は車をひっぱってまた土を運びにきた 牛はとしをとっていたのでいつもゆっくりとあるいていた 牛は男が売る土がすくなくなっていくのをよだれをたらしてみてい た 牛は休みをながくながくつづけたいようだった 牛は小便をし大きなくそをしてから重い荷物をひっぱった 牛は坂道にくると木の枝の鞭で尻をたたかれた 牛は車につまれた壁土でじぶんを塗りこむようにあるいた 牛は足跡を深くのこしていったので畦道がこわれた 牛はまもなく安く売られてしまった 牛は屠殺されたんぼも売られてしまった 牛は百姓といっしょに消えてしまった     竹林 一年まえまで 竹林のあったところで 風は 夜 蛇のかたちで吹く ムジナのかたちで吹く 鳥のかたちで吹く すると つまっている家々のなかから 人のみている夢の蝙蝠が とびたつ                        ほたる ほたるはもう死に絶えてしまったから ...
  死と詩が 同じ音(おん)なので いつも頭のなかにある それは闇で 奥行きがみえない   テレビや新聞が毎日 従えという声で新型コロナウイルスの暗闇を解説している  どこから来て  どこへ行くのか ゴーギャンの絵を思い出すが 場違いかもしれない けれど深みはいつわかるのだろう   人と離れていなさい そういわれると心はもっと近づきたくなる 言葉がなにか腐っているとも思う それは日頃探さなければいけないのにできていない なにかだ   窓ガラスを透かして庭をみると 去年アメリカしろひとりに食われてしまった桜の葉が茂っている 腐っている言葉は腐っている人からでるのではないか 詩が死のそばにいるのであればぼくは言葉の錐を持っているのだ   今年の八月はもう来ない (「民主文学」20年8月号)
一人の力でも 世界を動かせる そう思うことが すこしなにかを動かすことになる そう思う そう思わないかい? と、自己の生をみつめ、戦後一貫して時代と対峙した著者の40年間の集大成。生きもの、旅、家族、友、死、愛、戦争ほか、やさしく語りかける言葉が心に深く届く。 A5判並製 368ページ 価格2.000円 〒340円 雑草(あらくさ)出版〒940-2127 新潟県長岡市新産4丁目4-7Tel 0258-46-9393
●自由のひろばトップ 一羽の鳥  青木まや 林檎やイチゴを食べにくるヒヨドリは農家にとっては困った鳥だが美食家らしいそれよりも何よりもいつも二羽で動き回り仲良き鳥と見ていたのだが… ベランダに出した万両を狙いに来た一冬中目を楽しませてくれた赤い実を慌てて取り込んだのだが「ビューョ オーイ赤い実を出せ ビューョ ビューョ」大きな声で鳴きミラーガラスには体当たりをする執念深い図太いやつだこういうのは人間にもいるよなーと軟な考えを巡らしている間にも何度も何度も繰り返す家の中では其のあり様に脅え吠えながらもしがみ付いてくる仔 手すりとミラーガラスには紙を貼り風にまかせた事はこれで終わったかと思ったのだが恐れることなく来ては鳴く翌日も朝から「ビューョ」しつこいやつだ 万両の実はそんなに美味しいのか?ミラーガラスに映っているのはおまえの姿だよ独りぼっちは寂しいか椿も梅も咲いた 嬉しい恋の季節はもうすぐだそれまでの辛抱だよほら春本番はすぐそこまで来ているのだから   ●選評 選評=都月次郎 昔窓ガラスに野鳥がぶつかって庭に落ちたことがある。そのときはガラスにくっきりと青空が映っていたので...
●目次 特集 病い草倉哲夫 山椒魚 4  小田切敬子 つゆごもりに はなしこむ 5  いいむらすず 真夜中の手 6  坂田トヨ子 噛みしめる 7  伊藤眞司 PTSD 8  いわじろう 共存 9  加藤幹二朗 正直な痛み 10  宮本勝夫 終活の生業 11  佐藤誠二 呪文 12  上野崇之 西へ向かう車の中で 13  佐伯徹夫 消毒魔 14  彼末れい子 かかったのかも? 15  たなかすみえ 胃袋をつかむのは 16  滝本正雄 戦前回帰症候群 17  白永一平 貧乏ないのち 18  榊次郎 道頓堀の灯りが消える頃 19  浜本はつえ 病室を見舞う 20  石関みち子 優しい言葉を 21  織田英華 戻って来なかったとき 22  田島廣子 コロナと戦う 23  あさぎとち 静かな歩幅 30  中川桧 銀の窓 31  松田研之 それは 32  水衣糸 五郎叔父さん 33  神流里子 ここまでおいで 34  赤木比佐江 朝から夕まで 35  小田凉子 びんずるさん 36  菅原健三郎 母の神様 37鈴木太郎 俺の意地 38  白根厚子 歩を進める 39  妹背たかし 雲雀が鳴いた日 40  あべふみこ 父のこと 41  春山房子 半盲 42...
●自由のひろば 乳房の重さ   御供文範 その夜ぼくは母と風呂に入った裸電球一個の薄暗い風呂場の湯船から雪舞いのように湯けむりがゆらめき時折 冷たい隙間風が頬をよぎる 母とぼくは狭い湯船で顔を向き合いからだを沈めていたするとぼくの目の前に大きな白いおっぱいが浮かび揺れている驚きとうれしさのあまり二つのゴムまりのようなおっぱいを持ちあげたり揺すったりした母はくすぐったいとからだをよじるぼくはますますはしゃぐ 今思えば 母は日々の張りつめていた緊張から解放されつかの間の生の喜びに浸っていたのかもしれない 夫を喪い 三人の幼子を背負い母子家庭の行く末への不安風呂に浸かるというのは癒しではなくひとときのまやかしだと母は知っていた 湯船からあがれば雪のように白いふわふわおっぱいは引力に逆らえずもとの乳房となりこれから苦難な道のりが待っていることを母は知っていた その日の昼 騒々しかったのは父の告別式が営まれていたからだったぼくが二歳の時で ずうーっとのちに知った   ●選評 選評=佐々木洋一 モチーフとしてはよくある題材だと思います。おっぱいに対する想いは、取り分け男の子には忘れることが出...
●現代詩時評 いのちを享けた意味柴田三吉  二〇一六年に起きた「津久井やまゆり園殺傷事件」の一審判決(三月十六日)で、植松被告に死刑が言い渡された。被告は控訴せず刑が確定した。 事件を起こした動機が、「障害者は生きている価値がない」という歪んだ考えであったため、社会もこの判決を当然のこととして受け止めた。 たしかに許し難い犯罪ではあるが、私は、この判決に同意しない。被害者と家族の苦しみは想像を絶するほど大きく、その傷に他者が触れられないことを承知の上で言うのだが、私は死刑制度そのものに反対だからだ。 罪の償いを刑の執行で終わらすべきではない、というのがその理由である。罪を犯した者には、自らの行いと最後まで向き合っていく責務がある。社会の側も彼らを内に抱え込み、出来事の意味を考え続けていく必要があるだろう。死による清算はそうした営みを放棄し、何かが終わったという錯覚を人々に与えかねない。人と社会の闇は闇のまま残されてしまうのだ。 また国家による殺人を、私はどんな場合も容認しない。それは「目には目を」といった報復手段であり(戦争もその一つだ)、人間の理性を衰弱させる制度だからである。死刑...
特集 短詩――96人集 秋村宏 いま 葵生川玲 麻痺 青井耿子 暖冬異変 青木まや 心得 池島洋 三姉妹 いいむらすず 見えないものに 池澤眞一 座視 安曇野彩 歩く 石関みち子 コロナの春は 石渡貴久 横浜大空襲防空壕避難体験 伊勢薫 思うと言う事 伊藤公久 長生きをして 伊藤眞司 ふるさと 妹背たかし 秋 いわじろう 何かに 植田文隆 有明海 梅津弘子 アベマスク 上野崇之 坪庭の風物詩 遠藤智与子 せかいの はじまり 大釜正明 彫貌 大塚史朗 どこかに春が 大西はな そこへ おおむらたかじ 付け木 岡田忠昭 見えないけれど 奥田史郎 普通と不通 小田凉子 母のミシン 小田切敬子 コロナ ラプソディ 加藤三朗 上野駅 加藤徹 マスク 上手宰 マスクごしの春 神流里子 祖母の神さま 上條和子 買い物 川花まほ いかの目も 上山雪香 故郷 きみあきら 武器 草倉哲夫 呼ぶ 黒鉄太郎 命よりおふざけか? 小泉克弥 戦略家 こまつかん 随意 小森香子 心の眼をひらいて 呉屋比呂志 薄紅のナスタチウム 西明寺多賀子 日本茶 汐見由比 折り鶴 斎藤彰吾 宇宙からの声 志田昌教 ある光景 玄...
☆第48回壺井繁治賞は清野裕子詩集『賑やかな家』に決まりました。日常の出来事を描いて、個と個のつながりである現在の家族における生と死を身近に感じさせる独自な詩集です。さらに大きな発展を願っています。
特集 戦争体験なし あり 柴田三吉 あなたもひとりの芝憲子 最後の手紙妹背たかし 私の戦争杉本一男 柳行李田畑悦子 戦争遺児山﨑清子 忘れない光谷公男 不帰の家上野崇之 「石を持て追わるる」ことなく大塚史朗 戦中体験田辺修 一房のバナナ石関みち子 1学期に3度変わった学校床嶋まちこ 追体験浅尾忠男 詩二題河合恒生 壺いだ・むつつぎ 子豚のぶう太北村真 タペタムみもとけいこ 「自衛隊員」募集してます林ひろ 島で生きるいいむらすず 言わぬ言葉桜井くに子 雑穀御飯奈木丈 写真の居場所勝嶋啓太 父も母も子供の頃の話をしたがらないきみあきら 国賊呼ばわり池澤眞一 父の話阪南太郎 友よ山越敏生 読み伝える本読みたなかすみえ 守りたいのは斗沢テルオ 同時代の二人坂杜宇 知りませんが滝本正雄 不当に逮捕された母田上悦子 戦争終結春山房子 秋彼岸小森香子 2020年 早春清水マサ 城下町 新発田にて草倉哲夫 ロマ佐相憲一 ある年代記志田昌教 若人へ芝原靖 これからの戦争を知らない子どもたちへ呉屋比呂志 砂に埋もれて安仁屋眞昭 戦後終わらぬ 沖縄 どうして くれる! エッセイ 戦争体験のはざまで ...
今年の「夏の詩の学校」は7月19日から21日まで、淡路島で開催されます。アーサー・ビナードさんの講演や多彩な詩の講座が予定されています。どうぞご参加下さい。
特集 忘れない 玉川侑香 震災から二十五年・小景 佐々木洋一 わたなべたろう 魚津かずこ もどかしい 岡田忠昭 声の礎石 妹背たかし 石を拾う 狭間孝 オレンジ色の十五夜 松田研之 おい、おるか 梅津弘子 「槍」から 後藤光治 歳月 大釜正明 この坂を 上っている 田辺修 うつろう花 武田いずみ 家路 佐藤誠二 マタニティにはモーツアルト 斎藤彰吾 ラグビー、世界へ 府川きよし 身について 永井秀次郎 印象場所 永山絹枝 冬の菜の花 かわかみよしこ ミサオさんの最期 おおむらたかじ 国防色の半ズボン いだ・むつつぎ 子どもたちは渡り鳥のように 松村惠子 待たせる 伊勢薫 私の好きな人たち 上手宰 自分に気付かれる日 前田新 忘れない 菅原健三郎 母の独り言 田島廣子 私が子どものころ 丸山乃里子 その日の午前 山野次朗 山桜 宇宿一成 揺れる鏡 横田重明 夢のはなし 伊藤眞司 虫 山田よう 未来のために忘れない 大嶋和子 その人 いわじろう 忘れないでね と 遠藤智与子 対岸より 大道和夫 扉の裏側 青井耿子 眠る前に 白根厚子 忘れていない 臭い 髙嶋英夫 いつまでも 大西は...
●詩作品 本棚  渋谷卓男 どれほど揺れただろう家族の去ったあの家は気にかけながら夏が過ぎ、秋を過ごし暮れになってようやく訪れる ガラスが割れてないかタンスが倒れてないか けれどほこりが一面、霜のように降りているばかりでどの部屋も冬の日ざしに静まりかえっている  わたしが残した本も 残したまま棚にあった 一冊も落ちず 月日の分だけ色褪せて わたしはそして、ひそかに思い描く死んだはずの母が息子の本をひろい上げひとり棚に戻しているところを いつだってそうだった窓を開ける音がして畳を掃く音がしてうとうとしてる間に全部済んでいて終わったよ 明るい顔がのぞくのだ――今日はご本読もうか こどもの目の前に生まれて初めての本が広がるものがたりの海ことばの風わたしの本棚の最初の一冊 特集 本を読もう青木はるみ 古い古い本 4  渋谷卓男 本棚 5  佐伯徹夫 本を求めて 6  御供文範 朝日のあたる本棚 7  宮武よし子 心の糸ふるわせて 8  斗沢テルオ 母の謎の格言「本を跨ぐな」 9  志田昌教 心の引き出し 10  清水マサ 落下 11  こまつかん 書物を読む 12  加藤徹 言葉よ 語れ 13  秋山...
●詩作品 そのおとこみもとけいこ みかん山は草一本生えていないみんな薬で枯らしてしまうからだみかん山のそばでつくしを採っていたらおとこが近づいてきて やまに入るなと 怒るのかと思ったらみかん山のつくしは農薬すってるからとるなと そのおとこはいった四十年前の声が 耳のおくにはえている 草は除草剤で枯らし 化学肥料をやり農薬をかけて病気を予防しなければ出荷はできないおかげで木の細い根は枯れてしまいいまやみかんの根はこんなだ と拳骨をぐっと握り振りあげた 突き出した腕のさきの力瘤のような拳骨の毛細血管も 農薬すってかじかんでいたのに相違ない 二〇一八年夏の西日本豪雨災害で愛媛県南予地域の多くのみかん山が崩れおちた それ以前にもみかん山はたびたび崩れた海の近くの急傾斜地にある 農薬で雑草もはえない拳骨のような根をしたみかんの木が真砂土の傾斜を支えられるわけがない 生計をささえた傾斜地は支えきれずあの日背後から家々をのんだ土砂は耳の奥まで流れ込んできたかそのおとこは 土石流にのみこまれただろうか風がふくとおとこのこえが耳のなかでぼうぼうと吠える ●編集手帳 ☆特集は「海外詩」です。水崎野里...
●編集手帳 ☆新しい年は、詩人会議の存在が問われる一年になる、といえます。憲法改悪、言論、表現の自由を抑圧しようとする流れを拒否していきます。☆「新春作品特集」にご寄稿いただきました会外のみなさまにお礼申し上げます。☆上手宰、柴田三吉さんの対談「時代と詩」は、昨年の平和集会(8月)でなされた記録です。お二人の、いまの社会のなかでの詩作態度、方法についての率直で熱い発言に、強い刺激を受けます。☆「詩人会議グループの抱負」は、代表者のみなさんにグループの現状や抱負を述べていただきました。全国各地のグループのエネルギーは、詩運動の中心です。その地道な活動は、さまざまな困難をかかえていますが、詩の力を発揮しようという意志は堅いものです。それらを確認しあうことで、さらに持続と詩作を。☆今年の表紙写真(韓国の写真作家・鄭周河氏)の題材(表紙写真あれこれ・柳裕子さん)は、詩を書く人の若々しい精神のシンボルとしての世界の子ども、若者たちです。(秋村宏)
新春作品特集  谷川俊太郎 詩の話 草野信子 苦い木の実 齋藤貢 燃える火 勝嶋啓太 合意なき決定 上手宰 紙の大地 彼末れい子 むべなるかな 若松丈太郎 ひと由来の 渋谷卓男 資質 青木はるみ 書初め 高田真 さなぎ 浅尾忠男 天皇ファースト 奥田史郎 馬 佐々木洋一 つぶやき 山内宥厳 嵐 北村真 父の帰還 佐藤文夫 いま 地球は怒っている 大塚史朗 そして正月 呉屋比呂志 山里の新春 熊井三郎 干渉 柳瀬和美 帰省 玉川侑香 おれの 足の 形 石川逸子 耳をすませば 中上哲夫 川の色 都月次郎 海水が熱い 甲田四郎 仕事の夢 狭間孝 通勤 安水稔和 花巻はなまき二篇 丸山乃里子 かりがね 荒川洋治 作られた人 風野真季 まどろみ 山口賢 火鉢 松田研之 独白「去年今年」の巻 遠藤智与子 決意 杉本一男 もやす 斗沢テルオ お正月様ご来訪 後藤光治 そして「令和」 芝憲子 時の奥から 清水マサ 君への愛をこめて 中原道夫 郊外電車の中で くにさだきみ 平和ではなく「令和」だ。 佐相憲一 冬 照井良平 年っことるって 嶋岡晨 点検 葵生川玲 消去
●詩作品 海水が熱い  都月次郎 海水が熱い切符を知らない子供が電車に乗っている夜太平洋でサンマが煮えている一〇〇年に一度の豪雨が毎週やって来る段ボールの中で子猫が四匹団子になっている 海水が熱い知事と大臣が料亭で酒宴堤防が黙って崩れている避難所の外でホームレスが震えている 海水が熱い地震 カミナリ 竜巻 失業洪水 土砂崩れ 堤防決壊 消費税泥流 水没 地滑り 汚染土 オーイ ねえちゃんあついよー裸のトランプが世界を搔き回す 海水が熱い電柱が折れる鉄塔が折れる道路が折れる鉄橋も折れる暮らしが折れる気持ちが折れる希望が折れる 海水が熱い文学的な気象庁いのちを守って大切な人を守って 救助してくれませんか? 自分のいのちは自分で守りましょう 海水があああああああああああああっち~い!   ●編集手帳 ☆新しい年は、詩人会議の存在が問われる一年になる、といえます。憲法改悪、言論、表現の自由を抑圧しようとする流れを拒否していきます。☆「新春作品特集」にご寄稿いただきました会外のみなさまにお礼申し上げます。☆上手宰、柴田三吉さんの対談「時代と詩」は、昨年の平和集会(8月)でなされた記録...
●詩作品 海水が熱い  都月次郎 海水が熱い切符を知らない子供が電車に乗っている夜太平洋でサンマが煮えている一〇〇年に一度の豪雨が毎週やって来る段ボールの中で子猫が四匹団子になっている 海水が熱い知事と大臣が料亭で酒宴堤防が黙って崩れている避難所の外でホームレスが震えている 海水が熱い地震 カミナリ 竜巻 失業洪水 土砂崩れ 堤防決壊 消費税泥流 水没 地滑り 汚染土 オーイ ねえちゃんあついよー裸のトランプが世界を搔き回す 海水が熱い電柱が折れる鉄塔が折れる道路が折れる鉄橋も折れる暮らしが折れる気持ちが折れる希望が折れる 海水が熱い文学的な気象庁いのちを守って大切な人を守って 救助してくれませんか? 自分のいのちは自分で守りましょう 海水があああああああああああああっち~い!   ●編集手帳 ☆新しい年は、詩人会議の存在が問われる一年になる、といえます。憲法改悪、言論、表現の自由を抑圧しようとする流れを拒否していきます。☆「新春作品特集」にご寄稿いただきました会外のみなさまにお礼申し上げます。☆上手宰、柴田三吉さんの対談「時代と詩」は、昨年の平和集会(8月)でなされた記録...
二つの部門で新人賞の募集をしています。 詩部門は400字詰原稿用紙3枚以内でテーマは自由です。 評論部門は400字詰原稿用紙30枚以内。テーマは詩に関するものです。 応募作品は商業紙誌・詩集等に未発表のものに限ります。ただしサークル・グループ・同人誌上に発表の作品はこの限りではありません。 各部門入選者1名に賞金5万円が贈呈されます。 締切は2020年1月10日です。 お問い合わせは E-mail sijin-kaigi@tokyo.email.ne.jp までどうぞ。
●詩作品 チョーセンコ  青井耿子 このごろよく戦争中の夢を見る昨夜は空襲にあった夢今朝は朝鮮民族侮辱の夢 私は入学前の年ジフテリアにかかり右半身不随となった国民学校令は私の就学免除をしてくれるはずもなく一年生のときは母の背に負われて通い二年生になって、やっと誰かに手をひかれると歩いて行けるようになった兄と手をつないでいると「オトコとオンナ チョーセンコ」そう言って通学中をはやされたはやす方も、はやされる方も重大な民族差別であることをわからずに それほど当時、日本は朝鮮半島全体を植民地支配していた支配下の民族は、いつも侮辱されはずかしめられていたのだ最近、日本人クリスチャンの手記を読んだ戦争体験の手記だった所属する小さな隊が中国の前線にいたとき集落を急襲して慰安婦狩りをやったのだいったん軍隊に入れられれば上官の命令をきかねばならず悲しい手記だった でも日本には過ちては改むるにはばかることなかれという言葉がある私たち日本人は謝ろう 心から 何度でも朝鮮半島を植民地にしていたときのことを他の国々を侵略したことを  ●編集手帳 ☆今年は二つの大きな災害がありました。一つは自然災害で...
Facebookのページはこちらにあります。https://www.facebook.com/shijinkaigi/
半世紀以上にわたって活動してきた「詩人会議」の発足当時の様子がわかるようにと、創刊号から順次、目次と編集ノートをアップしています。当時の意気込みが伝わる貴重な資料だと勝手に自負しています。作業はなかなか進みませんが、気長におつきあいください。
□編集ノート□ 創刊号を出したのはついこの間のような気がするのに、はや第六号目を重ねることになった。この間に一般の読者や批評家から、いろいろな感想を寄せられたり、批評をうけた。それらが正当な批評であるならば、どんなに手きびしいものであろうと、今後のわれわれの文学的実践のなかで生かしてゆこうと考えている。ところが、なかにはまったくお話にならぬ悪意あるいは敵意にみちた、批評とはいえぬ中傷と非難も見られるので、それがたとえ匿名であろうとも、なんらかのかたちで撃破していかねばならぬと考えている。□最近「詩人会議」グループの会員になりたいという申込が急速にふえ、直接読者もほぼ全国的にひろがってきた。このことはわれわれの詩の運動がしだいに広くふかく浸透しつつあることの証明として、大いに心強く思っている。この要望をわれわれはどこまでも大切にして、これからの仕事をつづけてゆきたい。(壺井繁治) □一〜五号の本文レイアウトは好評であったが、本号はどうであろうか。ごらんのようにエッセイを巻頭においたのをはじめとして、いわゆるオーソドックスな組かたをしてみた。これまでとの比較で.ご意見をいただければ幸いであ...
○編集ノート 第五号はメーデーにちなんで「メーデー詩」の特集をおこない、それに関連するエッセイとして、浅尾忠男に書いてもらった。最近は「メーデー詩」の特集をやる詩の雑誌など、あまり、見られず、そういう企画を「野暮臭い」ものとして嫌悪するムードさえあるように思われるが、わが「詩人会議」では、あえてこの「野暮臭い」企画をやってみた。メーデーはこの日、全国の労働者、働く農民その他が勢揃いして、自分たちの力を、それを抑圧する者にむかって示威し団結を固め、相互の連帯感をふかめる日であるが、抑圧された人民のたたかいはこの一日だけでおわるものでなく、ふだんのたたかいがここに結集される日だ。そのメーデーを、今度特集した諸作品がどのようにとらえているか。それは読者の忌憚のない批判にまかせる。今号もまた増頁、増刷で、創刊号に比べると、ありきたりの言葉だが「飛躍的発展」である。だいぶん先きのことだが、秋ごろまでには一〇〇 頁内外の雑誌にしたい。それになによりも、雑誌の内容をさらに改善するとともに、読者諸君の支持が基本的な力となるであろう。いっそうの支持をお願いする。(壺井繁治) ○6号から浅尾忠男が復帰で...
□編集ノート 前号のノートで「三号雑誌」云々と書いたが、この雑誌も「三号雑誌」におわらず、幸いに第四号を発行できることとなった。この雑誌の発刊は、ある種の人たちには余程のショックを与えたらしく、また余程の不快感をよびおこしたと見え、やれハバツ的だの、なんだのと、論証もあげずに吠えたてている有様は、そのまま彼等の内部に潜んでいるハバツ意識のあらわれといってよかろう。そういうヒステリックな遠吠えをよそに、読者諸君の支持をバックとして、雑誌の売行も好評で、第二号も売切れとなり、本号からは、さらに頁もふえ、刷部数もふやさねばならなくなった。第三号から設けた「自由席」の欄は、問題をはらむ読者の作品が今後読者諸君から寄せられるのに、もっともっと頁をふやしてゆきたいと考えている。ここからどんなにキラキラと輝く鉱石が掘り出されるかを、今後わたしたちはたのしみにしている。(壺井繁治) □お詫びしなければならないが、本号から編集業務を担当するはずだった浅尾忠男は急な手術のあとなので、私がもう三冊担当する。おおきな期待がかかっていたと思うので残念だけれども、おゆるしねがいたい。かれが復帰できるとき、途中で...
■編集ノート 昔、「三号雑誌」という言葉があって、三号まではどうやら出るが、あとがつづかないと、よくいわれたものだ。この雑誌もやっと三号まで辿りついたが、困難はこれからだと思っている。だが、幸いに創刊号は読者諸君の支持をうけて、売切れとなった。前の編集ノートでも書いたように、この雑誌の出発は同人雑誌であるが、ひろく全国的に読者グループをつくり、その基礎に支えられて読者層を拡大し、そのなかから詩の新らしい鉱脈を探りあて、日本の現実と詩の変革の工ネルギーを、汲みあげたいと考えている。だから「詩人会議」の地方グループず<りに積極的に参加してもらいたい。そのくわしい方式・規約は目下製作中だ。今月号もまた八頁増加し、定価も若干値上せざるを得なかったが、御諒承願いたい。今月から、「自由席」という見聞きの欄をつくった。一般読者のなかから「われと思わん」者は作品を寄せて貰いたい。ただしあまり長いのは困る。(壺井繁治) ■去年のうちに二月号まで出したのだけれども、一九六三年という実感は、やっばり実際に年をこしてしばらくしてからしみじみとやってきた。年末はちっとも年末という気がしなかったのに、新年は身に...
●編集手帳 ☆今月の特集は「ありがとう」です。 〝「ありがとう」の言葉は、人(他者)を大きく包みこむことができます〟というおもいに同感する人が多いのではないでしょうか。けれど実際はどうか、と考える人もいるでしょう。伝えられたら、受け取れたら、と、心の底にあった大切なものを記している作品が多いことに気づきます。それは他者の信頼をえたよろこびのようです。たしかに私たちは〝ありがとう〟と声をだす(心のなかでも)ことによって、その本当の意味を確認しているのです。☆上手宰さんの「連れ合いへの愛を書く勇気」は、’19年夏の詩の学校でのおはなしです。〝愛を離れて詩は存在しうるのか〟の問いには、じっくり応えたい魅力があります。☆9月9日、千葉県を直撃した最強級台風の甚大な被害に対して、政府の被災者支援13億円。イージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)には6000億もつぎ込むのに! 国民の生活=命を軽んじる思想との闘いです。(秋村宏)
●優秀作品 この世のものではない  今井くるみ 福島からきたことをかくして生きよう何回も死のうと思った 放射線のばいきんって呼ばれた賠償金もってるんだろうって毎週お金をとられた これは暴力にたえた子どもの話罪とがのない子どもたちに降る差別の嵐同じことがあった広島でも長崎でも被爆をかくして生き影響があるからと結婚を止められひっそりと亡くなっていった人たち黒い雨のあと無知な差別の嵐が吹きあれるヒバクシャは国際語になり地球ぐるみで核兵器をなくそうと国ぐにが知恵をだしあう時代流れにさからい被爆国の役目をうち捨ててわたしの国はわたしの身代わりになった人びとを見ごろし丸ごとあの世にゆこうとしているのか暗黒の世に逆もどりをして泣き暮らすのはどこの誰 いじめにさらされた少年はしめくくる震災でいっぱい死んだからつらくても生きるときめたそれはあの夏熱線で灰と煙にかわった人何十万人ものいのちもの言わぬたましいが彼の口をかりて 今にあらわれたのではないかわたしも気持ちをつよくもとう生活苦の嵐などふんばってみせると
●優秀作品 うちのおばあちゃん  村田多恵子 気を使ってばかりいて本音を言わずだけど言い出したら聞かないやっかいなひと 毎日死にたいと言いながら病院が好きで薬を欠かさず飲んでいるおかしなひと 待ち合わせの場所を間違えて迷子になって私が探し回ることになる世話の焼けるひと 風邪で寝込んだ私のそばでひっきりなしに話しかけ眠らせてくれない困ったひと 車を押して買い物にお惣菜を買ってきては家族に無理やり食べさせる強引なひと ほんとにもう・・・ それでも私の少しの微笑みに満開の笑顔で答えるかわいいひと どれもが私のしゅうとめうちのおばあちゃん
●優秀作品 庭への路  Carol Kei 最初は小さな願いだった普通に外に出られたらとドアの向こうの自由に視線を集中し悪魔の襲撃の終わりの庭の香りは天国だった 次は電車に乗ってみたいと野心を燃やして窓から見た走る景色は人生が始まったかのようだった もうもっともっとは止まらない次の目標は仕事を得ることその次はこれだけ稼ぐことその次はその次はと気づけば今度は不満が止まらない 健常人みたいにあれもこれもできない自分に愚痴が腐りあの庭への行き方が分からない あの香りを忘れずにいればなぁあの香りを忘れずにいたならなぁ
●最優秀作品 深夜  橋本俊幸 認知症の父を捜しあてどこへ行くのかと叱れば「家に帰る」というどこに帰るというのか家を出て夜は冷たく張りつめている 道を探すわけではないあてなどあろうはずがないここがどこだかわからずに住処を捨てさ迷い歩く呼び戻す声が届かない 「家に帰る」とは言葉が暗示することに思いが不意に跳ぶ「家に帰る」とはここを去るということかこの世に生まれ来る前のどこやらへ帰ってゆくということか 深夜光が去り光によって見えずにいた星は瞬く知識や記憶を引き出す術を失って言葉が見せずにいた意味を瞬かせる かなしみが込み上げる両手の平で肩を抱く
●優秀作品 むらが消える  落合郁夫 山また山のなかのむら村制施行前の一八八八(明21)年 一五六戸、八七二人あと、戦争や恐慌にもまれ第二次大戦では 村の5%、31人が殺されたでも、60年ほどさほど変わらなかった 変わりだすのは外材が幅を利かすようになってから 木材の伐り出しが止まったそして、エネルギーの様変わり 薪や炭は売れなくなった列島改造、所得倍増が声高に叫ばれ人は、まちへまちへと吸取られてゆく 国勢調査は語る 一九五五年、一四九世帯、六六九人 一九六五年、一〇九世帯、四四九人 一九七五年、九二世帯、三一〇人 一九八五年、七二世帯、一七四人 一九九五年、三九世帯、一〇一人 二〇〇五年、四〇世帯、九〇人 一〇〇周年を祝った小学校は消えた道路はよくなったがバスは引上げた行商も来ない子どもの声は絶えて久しい二〇〇六年、市になったが人口減少はさらにすすむ 「おいらが死んだらどうなるんやろ」その声は谷底に沈んだままいま、二五世帯、四五人むらが消える
●優秀作品 紙ヒコーキ  サトウアツコ 競うことが使命だと刷り込まれた紙ヒコーキその背中に印刷された青空は動かなくなった白い雲と私の視線を結んだ後 山折り 谷折り 自分を折り曲げてこそ自由を手にできるなら 山あり 谷あり 非行に走るより重心をコントロール 誰が一番ながく浮遊していられるのか知りたがる子供達の手は青空を指差しいっせいにスタートを切るけれど後ろに投げてから前進する仲間の紙ヒコーキ出遅れても挽回し追い上げてくるヤリも飛ぶ イカも泳ぐユニークなデザインの紙ヒコーキ 蹴落としあうより風の抵抗と上手く付きあうこれも一つの技だとしたら使わない手はない 見えない力が働いても相手の懐へ滑り込み解いていく終盤を見逃さないでほしい 緑地公園の芝生に青空が落ちてくる 役目を果たしたものから順番にゴールを迎える
●最優秀作品 夜行列車  志田恵 筆記用具と買ってもらったばかりのピンクの箸をランドセルに詰めて父と二人 住み慣れた部屋を出た二度と帰らぬとは知らなかったから振り向くこともしなかった一番好きな赤い花柄のワンピースにランドセルを背負って夜の街を駅に向かった無口な父がこれから遠くへ行くのだと言った 夜行列車に揺られて父のふるさとへ何もかも捨てた父が最後に私を捨てるため 夜行列車の窓から見た暗い闇の先空に輝く星と地を這う光の境界が消えた私の目を見ない父から渡された凍った蜜柑おまえは乗り物に酔うからと夜行列車の窓を少しだけ開けてくれた寒くはないかと聞いた声が風に震えていた 線路が続く先 朝がきたら楽しいことがあると信じた目を閉じると夜行列車が走り続けているその行く先を私は今も 知らない
●優秀作品 ボタン  望月はる子 瓶の中のボタン蓋を開けるとあの日が跳び出すこれは初めて作ったブレザーこれはお気に入りのビーチウェア学生服の金ボタンは誰の物だったのかゴム付きのくるみボタンは娘のために顔や声が景色をつれてくる弾む一つ一つを掌にのせ転がすとかわいた音がするこの服にはこれをあのバックにはあれを拘りのあった遠き日こんなものその気になればいつだって 捨てられると思ったはずの手がまた そっと棚に置く梅雨の夜
●優秀作品 宿題  岡田直樹 ええ、大好きなあの子たちはのこらず立派に卒業していきましたあの子たちとの出会いは、わたしが大学を卒業したころ。たずねていったのは駅前の大きな病院生きることすら綱渡りのような難病の子たちの学級です。ベッドのなかで正座していた彼らとさっそくはじめの授業でした。 えんぴつで輪郭をとり彩色していくのを教えるときは、『先生、やるじゃない、』授業がすすむにつれ、『やすむ暇をあたえないで、ぼくらには時間がないんだ、』そんな風に言っているようでした。そこでわたしは、宿題を課すようにしました。なるべく時間のかかる宿題を。長い休みが終わるでしょう?するとひとりのこらず、誇らしげに宿題を提出するのです。『すべてがおじゃんになるよ、けれど、ぼくらは明日のために宿題をするんだ、』そんな声が聞こえるようでした。 ええ、あの子たちは卒業し、ひとり残らず亡くなりました。けれど彼らの明日は確かにあって、はるか先へつづいている。ずっとずっと見えないほど先へ進んでいる気がするのです。もうすぐ桜の季節。あの子たちの後輩たちがあつまる日が来ますよ。