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 或る日のインド洋  立会川二郎 ガチャリとバルブが結合された静かなインド洋上 アケイ少年はこの日が待ち遠しかった今日は大好きなイスマエル兄さんの結婚式モスクのモザイク模様のタイルに陽が映えるアケイ少年はこの日の為に参拝者の荷を運びチップを貯めて街に出て花火を買っていたイスマエル兄さんと花嫁のアニラさんがモスクから出てきた響き渡る列席者の歌声アケイ少年は花火に火を付けたバーンと音がして花火が飛び散った アケイ少年は空が曇ったと思った少年がみた最後の空だった大きな鳥の影が空を覆ったその瞬間鳥の翼から閃光が放たれたモスクのモザイクの壁が崩れ落ちた鳥は去り瓦礫の山が残った ガチャリとバルブが結合された静かなインド洋上 日本国海上自衛隊給油艦からアメリカ合衆国海軍補給艦への洋上給油活動が始まった静かなインド洋上 アメリカ合衆国海軍原子力空母に艦上爆撃機が戻ってきた 或る日のインド洋静かな静かなインド洋上  ●選評おおむらたかじ 静けさの中で、ガチャリと音、一連で決まりですね。その時、イスラム圏のどこかで、少年が心待ちにしていたモスクでの兄の結婚式。少年はこの日のためにチップを貯めて花火...
●永山絹枝受賞著作抄    目次 Ⅰ 魂の教育者詩人近藤益雄「戦前」一、長崎綴方教育の創始者二、益雄と第一童謡集『狐の提灯』(上志佐小時代)三、第二童謡集『五島列島』(小値賀小時代)四、文詩集「勉強兵隊」と童詩教育五、リアリズムとヒューマニズムの道へ――児童生活詩として長い詩を――(田平尋常高等小時代)六、地域の文化を高めるために〝貧困との闘い〟――児童生活研究所の創設――(田助尋常高等小時代)七、決戦体制下の混迷と葛藤の中で――「人間・益雄」を支えた短歌会(平戸高等女学校時代)――八、短歌集『火を継ぐ』――どうしたって黙っていられるものか 愛するものを死なしてしまって―― Ⅱ 魂の教育者詩人近藤益雄「戦後」九、民主国家・民主教育建設への道①――綴方復興・胸のおどること!――十、民主国家・民主教育建設への道②〝益雄が夢みたものは〟貧しさからの解放、ゆたかさの建設――学校を村の文化の源に 田助中教頭・田平小校長時代――十一、知的障がい児教育の歩み①「みどり組の誕生」――これがほんとうの私のイス あたたかな日のこどもがもたれてきたり――十二、知的障がい児教育の歩み②「書くことの指導」――言葉の感覚を磨くことは生活感情を美し...
●白根厚子受賞詩集抄 母のすりばち 母は よく話をした東京の空襲がはげしくなって父の田舎である秋田へ疎開そんな中でも母は いろいろと語ってくれたすりばちもその一つだ 秋田へ疎開して何年過ぎただろう東京へ帰るめどもたたず父は鉱山の職場へ仕事に就いた母はあきらめがつかないのか よく溜息をついていたある日 父が花輪町へ行こうと わたしと母を連れて行ったずらりと上から 下まで商店街だった戦争が終わってから 三~四年だったろうかこの街は むかしのにぎわいを取り戻そうとしていたにちがいない母の嬉しそうな顔をしばらくぶりで見た荒物屋ですりばちをかったのだ母の料理は なにかとすりばちをつかうすりばちでごまをする 味噌をする……――このすりばちはじめて 父ちゃんに買ってもらったんだと嬉しそうな顔がわすれられないすりばちも 二十年 三十年使うと 目がすりへって使えない 疎開してから 二十五年目東京へ戻ったすりへったすりばちも荷物の中にあった あの すりばちを買った商店街は 鉱山が閉山になってからシャター街になったもう 思い出のひとこまになってしまったすりばち型の 盆地の町だ     戦...
ヒコクミン   ひだかよし 会うたびにしなやかに成長している孫たちの姿それに元気をもらいながら心の自由がなかった時代のわたしの年齢に重なるヒコクミンことばの意味は分らず良くないときにつかうことばと思っていた ケンペイさんが突然家に来て父の本箱や母のタンスをひっくり返して帰っていった神棚もなく敵国の神を信じるヒコクミン赤ちゃんのおむつの干し方が暗号を送るスパイ容疑にされたわたしはヒコクミンの子になった 学校で歌うのは軍歌ばかり軍歌を知らない私に先生はやさしく ともに歌ってくれた ある日 好きな歌はと問われチューリップの歌をハミングしたら日本人なら菊の花を歌えと叱られた 毎月八日は戦争の勝利を願うため全校で町の氏神さまに参拝ヒコクミンの子が鳥居をくぐるとケガレルからと そう先生に言われ列の最後尾 ひとりで鳥居の外を歩いた ケガレルとは何ですかそう問いても 答はなかったひとりぼっちは淋しかった 戦争が終わり心の自由よ 永遠に続け不戦を誓った父の想いその想いとともに生きてきたわたし孫たちに このばあばあの声はどこまで届いているのだろうか ●選評 都月次郎 戦後生まれの人たちにとっては、信じ...
新人賞詩部門  一人一篇。四百字詰原稿用紙三枚以内。テーマ自由。評論部門 一人一篇。四百字詰原稿用紙三〇枚以内。テーマ=詩に関するもの(詩論・詩人論・詩史論など。なお、参考引用文献などを別紙に明記のこと)。応募資格 特になし。応募作品は商業紙誌・詩集等に未発表のもの。ただしサークル・グループ・同人誌上に発表の作品はこの限りではない。この場合は、発表詩誌名・年月を明記のこと。略歴 氏名(本名)、年齢、職業、郵便番号、住所、電話番号、所属文学団体などを原稿末尾にそえること。締切 二〇二一年一月一〇日(当日消印有効)送り先 〒170-0004 東京都豊島区北大塚二-一八-三-二〇二    詩人会議新人賞係  
●自由のひろば 作品 聖火  田村きみたか 聖火は福島で止まった聖火は東京へ行くことはできなかった 巨大な怒りの意思を感じないか人間どもに対する巨大な意思が感じられないかこんな汚れたオリンピックは要らない多くの人を不幸に突き落とすだけのグローバル経済とやらもご免だ何か巨大な怒りの意思を感じないかその正体が何であるのかは永遠に分かりようがないが 何かとてつもない怒りの意思を感じるのだ 「復興五輪」開催のために遙かギリシアからやってきた聖火が福島で止まってしまったそして東京へ入ることはできなかった東京に電力を供給するために福島の原発でとてつもなくひどい事故が起きた東京に電力を供給するために福島で大惨事が起こって そのために故郷を失った人たちが大勢いるそのことに目を瞑って見ないふりしてもう福島は大丈夫なのだと東京オリンピックは言うさすがに何かの巨大な怒りがその汚れた口を塞いだ 聖火は怒りの炎である遙かな時空を超えて福島にやってきた聖火は怒りの炎であり人類への警告である変わり果てた原子力の火が引き起こしてしまったその現場にやってきた聖火は号泣したただ ただ そこに泣き崩れるしかなかったのだ ...
あおぞらの詩   小篠真琴 あおいろのそらの向こう側太陽がうつむき加減を失くしていくとききみは、あおいそらの切れ端をくちびるで押さえて歯茎からまっ赤な血を流す すると、抑えていた感情が分離したヨーグルトの上澄みみたいにすこしすきとおって流れ出すからその流れた部分を、ぼくはきみと十分に味わえるようにとカスタードクリームに混ぜ合わせていく地球儀のコマはくるくる回ってあしたからの風を、東方へ送り出した 夕闇は、もうすぐそこだよ あおいろのそらはもう用がないと言われた気分になりすこし哀しくなったのだから自信を取り戻した太陽とくるくる回った地球儀のそばでできるかぎりの愛妻家ぶりをはっきする それが、じぶんと地球とのこれから長いお付き合いの始まりだとあおいそらだけは知っていて無防備な地球はアリの行列を見守るくらいしかできない気になってやっぱり、太陽は東側に沈むんだなと迎え入れられた夕闇に問いかけていた 本能は、こっそりと臍を嚙む  ●選評 選評=草野信子 その色、その美しさを、どのような言葉で伝えたらいいのだろう。そんな夕焼けに出会う日があります。小篠さんは、喩によって、刻々と変わる空の色...
      すずめ すずめは米や麦をことわりもなしにくってしまう けれど百姓たちは、まとめて殺すことはしなかった じぶんの分身を畑やたんぼのなかに立てて どこかにいけ、と指さすのだった     牛 牛は車をひっぱってまた土を運びにきた 牛はとしをとっていたのでいつもゆっくりとあるいていた 牛は男が売る土がすくなくなっていくのをよだれをたらしてみてい た 牛は休みをながくながくつづけたいようだった 牛は小便をし大きなくそをしてから重い荷物をひっぱった 牛は坂道にくると木の枝の鞭で尻をたたかれた 牛は車につまれた壁土でじぶんを塗りこむようにあるいた 牛は足跡を深くのこしていったので畦道がこわれた 牛はまもなく安く売られてしまった 牛は屠殺されたんぼも売られてしまった 牛は百姓といっしょに消えてしまった     竹林 一年まえまで 竹林のあったところで 風は 夜 蛇のかたちで吹く ムジナのかたちで吹く 鳥のかたちで吹く すると つまっている家々のなかから 人のみている夢の蝙蝠が とびたつ                        ほたる ほたるはもう死に絶えてしまったから ...
  死と詩が 同じ音(おん)なので いつも頭のなかにある それは闇で 奥行きがみえない   テレビや新聞が毎日 従えという声で新型コロナウイルスの暗闇を解説している  どこから来て  どこへ行くのか ゴーギャンの絵を思い出すが 場違いかもしれない けれど深みはいつわかるのだろう   人と離れていなさい そういわれると心はもっと近づきたくなる 言葉がなにか腐っているとも思う それは日頃探さなければいけないのにできていない なにかだ   窓ガラスを透かして庭をみると 去年アメリカしろひとりに食われてしまった桜の葉が茂っている 腐っている言葉は腐っている人からでるのではないか 詩が死のそばにいるのであればぼくは言葉の錐を持っているのだ   今年の八月はもう来ない (「民主文学」20年8月号)
一人の力でも 世界を動かせる そう思うことが すこしなにかを動かすことになる そう思う そう思わないかい? と、自己の生をみつめ、戦後一貫して時代と対峙した著者の40年間の集大成。生きもの、旅、家族、友、死、愛、戦争ほか、やさしく語りかける言葉が心に深く届く。 A5判並製 368ページ 価格2.000円 〒340円 雑草(あらくさ)出版〒940-2127 新潟県長岡市新産4丁目4-7Tel 0258-46-9393